
「USDT」がEUで“追放”へ──知らなきゃ大損、OKXヨーロッパが打ち出した“最後の逃げ道”の中身
テザー(USDT)が、いまヨーロッパで居場所を失いつつある。EUの新規制「MiCA」が牙を剥いたのだ。大手取引所OKXヨーロッパが慌てて用意した“救済ルート”とは何か。そして、テザーはなぜ規制に背を向け続けるのか──。

大手暗号資産取引所オーケーエックス(OKX)のヨーロッパ部門が、ある“一方通行”の新機能をひっそりと投入した。利用者が手持ちの「USDT」を預け入れ、それを「USDC」へと変換できるというものだ。狙いはただ一つ。EUの新ルール「MiCA(暗号資産市場規制)」によって世界最大のステーブルコインが締め出されつつある今、利用者に“規制に適合した避難経路”を用意することにある。
コインテレグラフが入手した同社の発表によれば、この機能を使えば、テザー社が発行する「USDt(USDT)」をOKXヨーロッパの口座に預け入れ、それをEUのMiCA規制下で認められた最大級のステーブルコインの一つ「USDC」へと変換できるという。
そもそも、なぜこんな“救済策”が必要になったのか。理由は明快だ。テザー社は、MiCAのもとでUSDTを発行する認可を取得していないのである。7月1日にEUが規制の全面適用を完了させたことで、ヨーロッパ中のプラットフォームが預け入れの制限、取引ペアの上場廃止、あるいは利用者の残高を“適合コイン”へ強制変換する対応に追われている。
OKXヨーロッパによれば、今回の機能は「もう手持ちのUSDTを受け付けてくれないプラットフォームを使っている」あるいは「残高を自動的に移されてしまう」といった利用者のために設計されたものだという。ミソは、変換のタイミングだ。プラットフォーム側が一方的に決めた締め切りに追い立てられるのではなく、あくまで利用者自身の判断で好きなときに変換できる──そう同取引所は強調している。
だが、ここで見落としてはならない事実がある。ヨーロッパで“追放”の憂き目に遭っているとはいえ、USDTは世界全体では依然として圧倒的な王者なのだ。データ分析サイト「ディファイラマ(DefiLlama)」によれば、テザーは総額およそ3,100億ドル(約50兆円)というステーブルコイン市場のうち、実に約59%を占めている。その時価総額はおよそ1,840億ドル(約29兆9,000億円)。対する、サークル社のUSDCはおよそ730億ドル(約11兆9,000億円)にとどまる。まさに横綱と大関ほどの差がある。
そのUSDTが、ヨーロッパという一大市場ではじき出されようとしている──。OKXヨーロッパは、EUと欧州経済領域(EEA)の30カ国で、MiCAのライセンスのもと利用者にサービスを提供している。

Source: DefiLlama
テザーはなぜMiCAを拒んだのか
ここで湧いてくるのが、素朴な疑問だ。ヨーロッパ中の取引所から締め出される覚悟までして、なぜテザーはMiCAの認可を取ろうとしないのか。
じつはテザーは、この“不認可上等”の姿勢を一貫して正当化してきた。EUの規制枠組みが2024年後半に効力を持ち始めて以来、域内の取引所は次々と利用者をMiCA適合の代替コインへと誘導している。それでもテザーは動じない。
テザーの最高経営責任者(CEO)パオロ・アルドイノ氏は、MiCAを繰り返し批判してきた人物だ。同氏いわく、MiCAの準備金要件はステーブルコインの発行体に不要なリスクを負わせるものだという。準備金の一部をヨーロッパの信用機関(=銀行)に預けるよう義務づけている点が、そのやり玉に挙がっている。
2025年5月、アルドイノ氏はコインテレグラフのインタビューで、この枠組みを「ステーブルコインに関して非常に危険だ」とバッサリ。USDTがヨーロッパの取引所でサポートを失う可能性が高いと知りながら、あえて認可取得の道を選ばなかったと明かしている。
その後もテザーが方針を変える気配はない。2025年7月、アルドイノ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、MiCAの認可取得を再検討するのは「MiCAが消費者とステーブルコイン発行体にとってより安全になったとき」だけだと言い放った。要するに、「規制のほうが変われ」というわけである。

Source: Paolo Ardoino
そしてこの流れは、いよいよ庶民の足元にまで及んでいる。つい先日、デジタル銀行大手のレボリュート(Revolut)が、欧州経済領域とスイスの利用者向けにUSDTのサポートを打ち切ると発表したのだ。利用者に与えられた猶予は8月31日まで。それまでに売却するか引き出すかしなければ、残った残高は自動的に基軸通貨へと変換されてしまう──。
規制の網は、静かに、しかし確実に締まりつつある。

