
EUが「個人チャット監視法」を復活へ 企業がメッセージを勝手にスキャン、2028年まで継続
児童性的虐待コンテンツの摘発を名目に、テック企業による個人メッセージのスキャンを認める「チャット・コントロール」が欧州議会を通過した。暗号化通信は除外されたものの、プライバシー擁護派は「令状なき大量監視だ」と猛反発している。

欧州連合(EU)で、個人のチャットが“丸裸”にされかねない――。
欧州議会は、テック企業が児童性的虐待コンテンツを発見する目的で、利用者のメッセージをスキャンすることを2028年まで認める法案を可決した。
批判派からは「チャット・コントロール」と呼ばれる、いわくつきの法律である。
EUの議員たちは木曜日、「チャット・コントロール1.0」と呼ばれる規則の延長について、反対票を多数投じた。ところが、規則を阻止するためには361人の議員による反対が必要だった。
実際に法案阻止へ票を投じたのは314人。賛成は276人だった。反対派が上回ったにもかかわらず、必要な絶対多数には届かず、法案は生き残った格好だ。
今回の採決により、4月に失効していた「チャット・コントロール」の復活に向けた手続きが前進することになる。
同規則は、プライバシー保護や暗号技術を重視する人々の間で、かねて物議を醸してきた。もともとの制度設計では、メッセージ暗号化の根本原則そのものを破壊しかねないためだ。
ただし欧州議会は、わずかながらも“救済措置”を盛り込んだ。
「エンド・ツー・エンド暗号化が現在適用されている、過去に適用されていた、または将来適用される通信」を、スキャンの対象から除外する修正案を可決したのである。
暗号技術による自由とプライバシーを重視するサイファーパンクたちにとっては、小さな勝利といえる。
この修正案を提出した海賊党所属の欧州議会議員、マルケータ・グレゴロヴァ氏は、その成立を「ほろ苦い勝利」と表現した。
「暗号化を守ることは、私たちの最優先事項の一つでした。そのため、少なくとも暗号化を維持する修正案について、絶対多数を確保できたことは喜ばしく思います」
その一方で、こうも付け加えた。
「しかし同時に、自主的な大量スキャンが残念ながら可決されてしまいました」
法律の支持者たちは、児童を保護し、虐待コンテンツの拡散を食い止めるためには、この制度が不可欠だと主張している。
欧州議会が修正を加えた法案は、今後、EU理事会へ送り返される。
EU理事会は加盟国の閣僚らで構成される機関で、法案を承認するか、拒否するかを判断することになる。
「戦いは始まったばかり」
木曜日の採決に先立ち、欧州議会は火曜日、めったに使われない「緊急手続き」を可決していた。
これにより、議員たちは4月に失効した法律の枠組みを延長するかどうかについて、再び採決を行うことになった。
法的枠組みが失効して以降、ワッツアップなどのメッセージサービスは、虐待コンテンツを共有する利用者を発見するため、各社の判断で自主的な対策を講じることが認められていた。
欧州議会は3月、規則の一時延長をいったん否決している。
その一方で、「チャット・コントロール2.0」と呼ばれる恒久版の法律については、現在も協議が続けられている。
欧州議会最大会派の欧州人民党は、火曜日に行われた緊急手続きの採決を通じて、延長案を復活させた。
同党は3月の採決では、スキャン対象を制限する修正が加えられたことを理由に、規則延長におおむね反対していた。
しかし同党のマンフレート・ウェーバー党首は、修正を加えずに延長案を成立させる方法を模索してきたという。
元欧州議会議員のパトリック・ブライヤー氏は、恒久版となる「チャット・コントロール2.0」を巡る政治闘争について、「戦いはまだ始まったばかりだ」と語った。
「今日、欧州議会で見られた抵抗は極めて強力でした。今後の交渉で、何の疑いもない一般市民まで対象とする恒久的な大量スキャンについて、過半数の支持を集めるなど、完全な絵空事です」
恒久法である「チャット・コントロール2.0」を巡る交渉は、9月に再開される予定だ。
最大の争点は、メッセージのスキャンを特定の対象だけに限定するのか。それとも、広範囲の利用者に適用するのか――。
児童保護という大義の裏側で、EU市民の私的な会話がどこまで監視されるのか。個人の安全とプライバシーを巡る攻防は、これから本番を迎える。

