
暗号資産と金融市場がつながる危険、EU当局が警告 DeFiや予測市場を問題視
欧州証券市場監督局(ESMA)が、暗号資産市場と伝統的な金融市場の結び付きが強まれば、金融ショックが市場全体に波及するリスクが高まると警告した。トークン化株式やDeFiの不正流出、予測市場などを新たなリスク要因として挙げている。

暗号資産市場と伝統的な金融市場が、少しずつ「近づいている」。
そんな現状に、欧州の金融当局が警鐘を鳴らした。
欧州連合(EU)の金融市場監督当局である欧州証券市場監督局(ESMA)は9月10日、最新のリスクモニタリング報告書を公表した。

ESMA risk indicators for EU financial markets. Source: ESMA
その中でESMAは、脆弱性が高まっている暗号資産市場と、より広範な金融システムとの「結び付きの拡大」を注意深く監視する必要があると指摘した。
問題は、暗号資産市場だけで損失が完結しなくなる可能性だ。
暗号資産と伝統的な金融市場の接点が増えれば、どこか一方で起きたショックが、もう一方へと一気に伝わる恐れがある。
ESMAが今回、特に注目したのが「トークン化された株式」と「分散型金融(DeFi)」だ。
トークン化株式が金融市場を変える?
株式のトークン化は、現時点では世界の株式市場と比べればまだごく小さな存在だ。
だが、ESMAはその普及が進みつつあることを問題視している。
株式をブロックチェーン上でトークン化すれば、これまでの証券市場とは異なる参加者やインフラが市場に入り込む可能性がある。
それによって、市場の構造そのものが変わる可能性もあるという。
ESMAは報告書で、株式のトークン化はまだ初期段階にあるものの、導入の勢いは増していると指摘。金融市場に新たなプレイヤーやインフラが登場することで、従来の市場構造が変化する可能性があるとしている。
一方、DeFiをめぐっても懸念が強まっている。
最近相次いでいるDeFiプロトコルへの攻撃や資産流出を受け、ESMAは暗号資産市場と伝統的金融市場の「相互接続性」と、それによって生じる波及リスクへの警戒を強めている。
つまり、これまで「暗号資産業界だけの事件」と見られていたハッキングや資産流出が、金融システム全体に影響を及ぼす時代が近づいているというわけだ。
予測市場も「新たなリスク」
ESMAがもう一つ目を付けたのが、イベントの結果を売買する「予測市場」だ。
予測市場では、スポーツの勝敗や政治イベントなど、将来の出来事に連動する契約が取引される。
ESMAは、ここでもインサイダー取引や市場操作への懸念が高まっていると指摘した。
特に問題なのが、予測市場で暗号資産が利用されるケースだ。
ESMAによれば、暗号資産を利用した予測市場では、インサイダー取引やウォッシュトレード、複数の参加者が連携して市場価格を操作する「協調的な市場操作」などを発見することが難しくなる可能性がある。
暗号資産の匿名性や国境を越えた取引の容易さが、監視当局にとって新たな頭痛の種になっている格好だ。
米国では「ギャンブルか金融商品か」で法廷闘争
ESMAによる今回の警告は、米国で予測市場をめぐる規制論争が激しさを増しているタイミングとも重なる。
米国では現在、予測市場で取引される「イベント契約」を連邦政府のデリバティブ規制の対象とするのか、それとも各州のギャンブル規制の対象とするのかをめぐり、激しい対立が続いている。
米商品先物取引委員会(CFTC)は2026年を通じて予測市場についてガイダンスを発表し、連邦政府が規制するイベント契約については自らが排他的な管轄権を持つとの立場を示している。
ところが、州側は黙っていない。
CFTCは、予測市場運営企業に対して州のギャンブル法を適用しようとしたケンタッキー州、ミネソタ州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、イリノイ州、コネティカット州などを相次いで提訴している。

Source: Mike Selig
ケンタッキー州についてはCFTCによる提訴、ニューメキシコ州についてもCFTCが管轄権をめぐり提訴。さらにイリノイ州とコネティカット州などについてもCFTCが訴訟を起こしている。
もはや単なる規制当局同士の意見の違いではない。裁判所を巻き込んだ、本格的な法廷闘争になっている。
最終決着は最高裁か
この争いは、最終的に米国最高裁判所まで持ち込まれる可能性がある。
9月2日、ニュージャージー州当局は最高裁に対し、CFTCに登録された予測市場に対して州政府がスポーツ賭博法を適用できるのか判断するよう申し立てを行った。
ニュージャージー州側によれば、同じ問題をめぐる訴訟は少なくとも20州に広がっている。最高裁が実際に審理するかどうかは、まだ分からない。
だが、もし最高裁が判断を下すことになれば、予測市場を最終的に管轄するのが州政府なのか、それとも連邦政府なのか――その線引きを決定づける可能性がある。
暗号資産と伝統的金融市場の距離が縮まり、さらに予測市場まで急速に拡大する。
ESMAが警告しているのは、単に暗号資産の価格が上下するリスクではない。
一つの市場で起きた事故が、別の市場へ飛び火する。
そんな「金融市場の連鎖」が現実のものになれば、これまで暗号資産とは無縁だった投資家や金融機関まで巻き込まれることになる。
暗号資産が金融システムの外側にある存在だった時代は、少しずつ終わりに近づいているのかもしれない。

