
デジタルユーロで「誰が何を買ったか」はバレない?ECBがCBDCのプライバシー保護を強調
欧州中央銀行は、デジタルユーロを使っても中央銀行が利用者を特定することはできないと説明する。だが、各国ではCBDCが「金融監視」の道具になるとの警戒論が根強い。欧州が導入を急ぐ背景には、米国系決済企業への依存という“アキレス腱”もある。

欧州中央銀行(ECB)が、導入を計画している中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルユーロ」のプライバシー設計をめぐり、火消しに追われている。
ECBのピエロ・チポローネ専務理事は、8月10日に行われ、24日月曜日に公開されたインタビューで、デジタルユーロは中央銀行が閲覧できる取引情報を限定する設計になると説明した。
「ユーロシステムは、誰が支払い、誰が受け取ったのかを特定できない」
チポローネ氏は、こう断言した。
同氏によれば、利用者を特定できるのは取引に関与する銀行だけだ。マネーロンダリング対策などで本人確認が必要になる場合も、銀行がその役割を担う。
一方、ECBを含むユーロシステム側は、特定の個人とデジタルユーロによる支払いを直接結び付けることができないという。
さらにオフラインでデジタルユーロを利用した場合、支払いの詳細を確認できるのは、支払った本人と受け取った本人だけになる。
もっとも、これで疑念が晴れたわけではない。
デジタルユーロをめぐるプライバシー不安を打ち消そうとECBが説明を重ねる一方、議員やプライバシー擁護団体、暗号資産コミュニティからは、政府発行のデジタル通貨が金融監視を拡大させかねないとの警告が相次いでいる。
米国はCBDCに「待った」 トランプ氏が開発を禁止
米国のドナルド・トランプ大統領は2025年1月、金融の安定や個人のプライバシー、米国の主権を損なう恐れがあるとして、連邦政府機関によるCBDCの開発・推進を禁止した。
米下院ではこれとは別に、連邦準備制度理事会(FRB)によるCBDCの発行を禁じることを目的とした「反CBDC監視国家法案」の審議も進んでいる。
デジタルユーロの“本当の狙い” 米国系決済企業からの脱却
ECBがデジタルユーロを推す理由は、プライバシー対策だけではない。
欧州の決済インフラを強化し、欧州域外の決済事業者への依存を減らすことも、デジタルユーロの重要な役割として掲げられている。
チポローネ氏は4月、ラトビアで開かれた公開講演で、欧州が域外の決済事業者に頼っている現状は、戦略上の弱点になっていると指摘した。
ユーロ圏で行われるカード取引の3分の2は、欧州域外の企業によって管理されているという。
デジタルユーロを導入すれば、こうした依存を減らし、欧州自身が管理する決済インフラを確保できる。つまりデジタルユーロは、便利な電子マネーというだけではない。欧州が自らの「決済主権」を取り戻すための切り札というわけだ。
欧州議会の経済・通貨委員会は6月、デジタルユーロ法案に関する方針を支持。さらに欧州議会は7月、EU理事会との交渉開始に向けた提案を承認した。
必要な法案が成立し、残る技術面と運用面の工程を通過すれば、デジタルユーロは早ければ2029年にも発行される可能性がある。
「中央銀行には利用者が見えない」という説明は、果たして市民の不安を拭えるのか。欧州の巨大CBDC計画は、プライバシーと決済主権という二つの難題を抱えたまま、実現に向けて動き始めている。

