
ビットコインは「上がった」と聞くだけで買う人が増える?米連銀研究が解明した暗号資産乱高下の理由
クリーブランド連銀の研究によると、暗号資産を持つかどうかを大きく左右するのは、年齢や所得以上に「これから値上がりする」という期待だった。ビットコインの過去の上昇率を伝えるだけで、実際の購入まで増えたという。

米クリーブランド連邦準備銀行が発表した新たなワーキングペーパーが、ひとつの刺激的な答えを示している。
なぜ暗号資産は、株式や債券などの伝統的な金融資産とは、まるで別の生き物のように動くのか。
研究によれば、暗号資産を買う米国人は、単に年齢や所得、リスクの取り方が違うのではない。暗号資産が将来どれだけ値上がりするかについて、そもそも「信じている世界」が大きく違うのだ。
この発見は、暗号資産市場で激しい値動きが繰り返される理由だけでなく、価格上昇が新たな買い手を呼び込む仕組みも説明する。
相場が上がる。強気の見方が広がる。それを見た新たな投資家が市場に入る――。そんな価格上昇と強気予想の自己増殖が起きている可能性がある。
研究を行ったのは、マイケル・ウェーバー、ベルナルド・カンディア、オリビエ・コイビオン、ユーリー・ゴロドニチェンコの4氏だ。
研究チームは、1回あたり最大2万5000世帯を対象とした米国の大規模調査を繰り返し分析。その結果、誰が暗号資産を保有するかを左右していたのは、幅広い人口統計上の特徴よりも、暗号資産のリターンに対する期待だった。
論文のタイトルは「Do You Even Crypto, Bro? Cryptocurrencies in Household Finance(君、暗号資産やってる?――家計における暗号資産)」。
さらに研究チームは、情報を無作為に与える実験も実施した。ビットコイン(BTC)の最近の運用実績を見せるだけで、暗号資産に投じたいと考える資金の割合も、その後の実際の購入も増えることが判明した。
暗号資産保有の有無によるリスク認識。出典:米クリーブランド連邦準備銀行
研究者らが指摘するのは、投機バブルを生み出しかねない、実に単純な仕組みである。
過去の値上がりを見た新規投資家が参入する。彼らの買いで価格がさらに上昇する。その上昇を見て、また別の買い手がやってくる。
論文の著者らはこう記している。
「プラスのリターンが新たな参加者を引き寄せ、それが価格をさらに押し上げる」
ところが、ここには厄介な問題がある。暗号資産は、依然として多くの人から十分に理解されていないのだ。
研究者らが利用した2021年の調査では、暗号資産を持っていない人の87%が、今後1年間にどの程度のリターンが見込めるのか「分からない」と回答した。
では保有者なら分かっているのか。そうとも限らない。暗号資産を持つ人でも、実に54%が「分からない」と答えていた。
保有者は「1年で22%上がる」と期待
それでも予想を示した人だけを比べると、その差は歴然としていた。
暗号資産保有者が予想した今後1年間の平均リターンは22%。非保有者の予想は、わずか7%だった。保有者は非保有者に比べ、暗号資産を危険性の低い投資先だと考える傾向も強かった。
そして、この「どれだけ上がると思うか」が、保有の有無を驚くほど強く左右していた。
個人が予想する暗号資産リターンが1ポイント高くなると、その人が暗号資産を保有する確率は0.8ポイント上昇した。
リターンとリスクに対する考え方を組み合わせると、年齢、所得、性別といった目に見える属性よりも、暗号資産を持つかどうかをはるかによく説明できたという。
これは株式、債券、金とは対照的だ。
伝統的な資産では、リターン予想の違いよりも、年齢や所得、保有資産などの特徴のほうが、誰が投資するかを説明する力が強い。暗号資産では、その関係が逆転している。
出典:米クリーブランド連邦準備銀行
もっとも、暗号資産投資家に特徴的な属性がないわけではない。
ほかの条件を調整した後でも、40歳未満の人が暗号資産を持つ確率は、60歳を超える人より13ポイント高かった。
男性が保有する確率は女性より約4ポイント高く、所得や資産の多い世帯ほど市場に参加する傾向も確認された。
ビットコインの上昇率を見せただけで投資意欲が47%増加
この論文で最も市場への影響が大きいのは、2025年に行われた実験だろう。
研究者らは参加世帯を無作為に分け、ビットコイン、株式、ゲームストップ、インフレに関する情報をそれぞれ提示した。
ビットコインの過去12カ月のリターンを見せられた参加者は、ポートフォリオのうち暗号資産に割り当てたいと考える割合を約2ポイント引き上げた。
何も見せられなかった対照群の希望配分は4.3%だったため、相対的には約47%もの増加である。
しかも「買いたいと思った」だけではない。その後、実際に暗号資産を購入した割合も約2.5ポイント上昇していた。
著者らは、この結果を次のように説明する。
「ビットコインの最近のリターンに関する情報を提供すると、一部の世帯が暗号資産を買い始める」
ただし、誰もが簡単に心を動かされたわけではない。
効果が集中したのは、「情報が足りないから暗号資産を持っていない」と答えていた人たちだった。すでに「暗号資産は悪い投資だ」と信じていた人は、情報を見せられてもほとんど反応しなかった。
利益は「資産」より“宝くじの当選金”扱い
暗号資産による利益が、家計の消費に波及することも分かった。
ビットコイン価格が2倍になると、金融資産のすべてを暗号資産で保有している世帯が、耐久消費財を購入する確率は1.4ポイント上昇した。
条件を付けない全体の購入確率と比較すると、約7%の増加に相当する。
一方、食費や日用品などの通常支出に対する効果は続かなかった。
ここから研究者らが導いた比較は、いささか身もふたもない。
暗号資産で得た利益は、恒久的に資産が増えたものというより、「ギャンブル収入」や宝くじの当選金に近い感覚で扱われているというのだ。
「共通認識がない」から乱高下は終わらない
この研究が示す、より大きな意味は何か。
暗号資産の激しい値動きは、市場の需給や経済の基礎的条件だけで生まれているのではない。投資家同士の意見の食い違いと、新しい情報を受け取るたびに投資家が考えを変えることにも、その根がある可能性がある。
暗号資産は十分に理解されていない。投資家は将来性について、まったく異なる見方を持っている。そして過去のリターンに関する新しい情報は、期待だけでなく実際の行動まで変える。
著者らは、こう結論づけている。
「投資家の間で暗号資産についての共通の情報や信念が存在しないことは、価格変動の激しさが、当面の間、この新しい資産を特徴づける最大の要素のひとつであり続けることを示している」
暗号資産市場にとって、これは少々居心地の悪い結論でもある。
次に個人投資家の買いが押し寄せるかどうかは、その時のビットコイン価格だけで決まるのではない。
投資家が「それまでの値動きを、どのように聞かされたか」にも左右されるということだ。

