
暗号資産マネー、米予備選を席巻——軍資金308億円の“見えない選挙応援団”とは
カネは票を生むのか。アメリカの選挙戦で、暗号資産業界が握る巨額の政治資金が、その問いに堂々と「イエス」と答えてみせた。

カネは票を生むのか。アメリカの選挙戦で、暗号資産業界が握る巨額の政治資金が、その問いに堂々と「イエス」と答えてみせた。
そもそもアメリカには、日本にはない独特の「カネと選挙」の仕組みがある。企業や業界団体が候補者に直接渡せる献金には上限があるのだが、その代わりに「PAC(政治活動委員会)」という別組織を作れば話が変わる。これは特定の業界などが資金を集めてプールし、応援したい候補を持ち上げる広告や、対立候補を叩く広告を大量に打つための“選挙応援ファンド”だ。とりわけ「スーパーPAC」と呼ばれる種類になると、集められる金額に上限がない。企業がいくらでもカネを注ぎ込めてしまうのである。日本でいえば、ある業界団体が数百億円を握り、その金で「この候補を応援するCM」を全国に流しまくって業界寄りの議員を量産する——そんなイメージに近い。
そして今、その“青天井のカネ”を握っているのが、暗号資産業界なのだ。
6月2日(火)に行われたアメリカの予備選で、カリフォルニア、ニュージャージー、サウスダコタの3州にまたがる11人の民主・共和両党候補が、それぞれの予備選を制した、あるいは11月の本選挙へ駒を進めた。彼らの背中を押したのは、暗号資産業界が支援するPACが投じた約350万ドル(約5億6000万円)の広告費だった。
勝ち名乗りを上げた顔ぶれは華やかだ。カリフォルニア州の連邦下院議席をめぐっては、民主党のジャッキー・アーウィン、テッド・リュー、ゾーイ・ロフグレン、デイブ・ミン、マイク・マクガイア、ヒルダ・ソリス、ジョージ・ホワイトサイズ、ルー・コレア、ラティーファ・サイモンの各氏が予備選を突破。ニュージャージー州第8選挙区では民主党のロブ・メネンデス氏が、サウスダコタ州の上院議席では共和党のマイク・ラウンズ氏が、それぞれ勝利を収めた。

Selection of results after Tuesday’s primaries for California House seats. Source: CalMatters
308億円の「軍資金」を抱える親玉
この一連の勝利の裏には、「プロテクト・プログレス」と「ディフェンド・アメリカン・ジョブズ」という二つのPACが、合わせて約350万ドルをメディア広告に注ぎ込んだ事実がある。両者を束ねる親玉が「フェアシェイク(Fairshake)」だ。暗号資産取引所コインベースとリップル・ラボが資金の大半を拠出するこのスーパーPACは、今年1月時点でなんと1億9300万ドル(約308億8000万円)もの軍資金を抱えていたと報告している。候補者本人に現金を手渡すのではなく、この潤沢な資金を使って“外から広告で援護射撃する”のがミソである。
フェアシェイクの広報担当ジェフ・ヴェッター氏は、コインテレグラフの取材にこう胸を張った。「アメリカには、我々の世界的なリーダーシップを維持するため、コミュニティに責任ある指針を敷く議員が必要だ」。
この資金投下は、先週テキサス州の決選投票予備選で行われた同様の広告攻勢に続くものだ。テキサスでは民主党のクリスチャン・メネフィー氏が現職のアル・グリーン下院議員を破り、共和党の4候補も小規模選挙区で勝利を収めている。これらの候補の多くは、在職中に「ジーニアス法(GENIUS Act)」のような“親・暗号資産”法案に賛成票を投じたり、公の場でデジタル資産の推進を支持したりしてきた人物たちだ。
次なる標的はメリーランド州と目される。連邦選挙委員会(FEC)の提出書類によれば、プロテクト・プログレスは水曜時点で、6月23日に予備選を控えるメリーランド州第5選挙区の民主党候補エイドリアン・ボアフォ氏を支援するため、すでに310万ドル(約4億9600万円)超を投じているという。
「開発者を守れ」——新たな応援団も産声
カネの動きはこれにとどまらない。水曜には業界のリーダーたちが、新たなハイブリッド型PAC「ディフェンド・デベロッパーズ(Defend Developers)」の立ち上げを発表した。「開発者保護と暗号資産の作り手を積極的に擁護する現職議員」を支援するという。理事会には、ディーファイ・エデュケーション・ファンド、オルカ・クリエイティブ、ソラナ・ポリシー・インスティテュート、ユニスワップ・ラボなど、名だたる暗号資産組織のCEOや政策担当者が名を連ねる。

No official data available on Defend Developers as of Wednesday. Source: FEC
創設者のギャビン・ザヴァトーン氏は気炎を上げる。「分散型技術を構築する開発者たちは、あまりに長きにわたり、明確なルールや指針ではなく、規制上の不確実性と執行措置に直面してきた」。
潤沢なカネを手に、暗号資産業界はワシントンの議席を一つ、また一つと買い進めている。

