
HTXへの英国制裁で暗号資産の「リスク判定」が混乱 無関係な利用者まで危険扱いか
英国が暗号資産取引所HTXに制裁を科したことをめぐり、ブロックチェーン研究者の間で波紋が広がっている。狙いはロシア関連の資金網だったはずだ。だが、その一撃は業界のコンプライアンス体制そのものに、思わぬ副作用を及ぼしているというのである。

英国が暗号資産取引所HTXに制裁を科したことをめぐり、ブロックチェーン研究者の間で波紋が広がっている。狙いはロシア関連の資金網だったはずだ。だが、その一撃は業界のコンプライアンス体制そのものに、思わぬ副作用を及ぼしているというのである。
ギャラクシー・デジタルのリサーチ責任者、アレックス・ソーン氏はXへの投稿で、英国が「HTX全体」を制裁対象に加えたことについて「問題がある」と指摘した。HTXには多くの正当な利用者がいるためだ。
ソーン氏が問題視したのは、ステーブルコイン発行企業がどのタイミングでトークンを凍結するか、その判断基準が大きく分かれている点である。つまり、同じ「制裁リスク」といっても、企業ごとに執行の実態はまるで違う。ここに大きなズレが生じているというわけだ。
セキュリティ研究者のテイラー・モナハン氏もXで、今回のHTX制裁は、盗難資金を見つけて止めるために分散型金融、いわゆるDeFiプロトコルが積み上げてきた長年の努力を損ないかねないと警告した。モナハン氏もまた、HTX利用者の大半は正当なユーザーだとみている。

Source: Taylor Monahan
ブロックチェーン調査員のザックXBT氏も批判の列に加わった。今回の制裁について「少しやりすぎだ」と評し、HTX関連アドレスのオンチェーン上の“汚染”は「壊滅的」だと述べた。
同氏はこう語っている。
「要するに、エクスポージャーをもとに事件を追跡する際、いまや制裁カテゴリーを無視せざるを得なくなっている。『リスク』という概念そのものが、意味を失ってしまったからだ」
批判の背景にあるのは、英国が5月26日に発表した制裁である。対象となったのは、HTXの背後にあるパナマ法人フオビ・グローバルS.A.だ。英国当局は、同社がロシア関連の金融ネットワークを支援した疑いがあるとしている。
HTXは英国制裁に反論
英国当局は、HTXが制裁対象であるA7リミテッド・ライアビリティ・カンパニーおよびガランテックスを通じ、金融サービスや資金の提供によってロシア政府を支援したと疑う合理的な根拠があると説明している。
一方、HTXはこの疑惑を否定している。制裁対象となった法人は、オンライン取引所として運営されているHTXとは別の存在だというのが同社の主張だ。
ただし、ブロックチェーン分析会社グローバル・レジャーの報告は厳しい内容だった。同社によると、HTXは2021年から2026年5月までの間に、約210億6000万ドル、日本円で約3兆3780億円相当の高リスクな暗号資産フローを処理していたという。
そのうち少なくとも76億4000万ドル、約1兆2260億円は、ロシア関連の高リスク主体やダークネット市場に結びついていたとされる。そこには、ガランテックス、その後継とされるグリネックス、A7A5、そしてかつての巨大闇市場ハイドラも含まれていた。
制裁の余波は、下流にも及んだ。
トランプ氏と関係があるとされるDeFiプロジェクト、ワールド・リバティ・フィナンシャルはその後、制裁順守の審査を理由に、HTX関連アドレスを凍結した。これに対しHTXは、同プロジェクトのステーブルコインUSD1を上場廃止にし、複数の取引ペアを停止する措置に出た。
制裁は本来、悪質な資金の流れを断つためのものだ。だが今回のHTX制裁は、正当な利用者まで一網打尽にし、オンチェーン分析における「リスク」の物差しそのものを曇らせた可能性がある。研究者たちの懸念は、まさにそこにある。

