
スターマー退陣で英国暗号資産業界が色めき立つ「Web3推進派」バーナム氏が後継最有力に
マンチェスター市長時代にブロックチェーン産業を後押ししてきたバーナム氏の登場は、英国の暗号資産業界に一筋の楽観ムードをもたらしている。

支持率の低迷に加え、労働党内からの圧力も強まるなか、英国のキア・スターマー首相がついに退陣した。
スターマー政権下で英国政府は、政治キャンペーンへの暗号資産献金に一時停止措置を導入していた。理由は明快だった。暗号資産が、英国選挙に外国勢力が影響を及ぼすための“抜け道”になりかねない、という懸念である。
この献金禁止にとどまらず、労働党政権下の英国は暗号資産規制について、総じて慎重な道を歩んできた。
そのスターマーがダウニング街10番地を去ることになり、後任をめぐる議論が一気に熱を帯びている。そこで有力候補として浮上しているのが、メーカーフィールド選出の国会議員で、前グレーター・マンチェスター市長のアンディ・バーナムだ。
バーナムはこれまで、ブロックチェーン産業が経済発展を後押しする可能性について、前向きな姿勢を示してきた。だが、その“期待感”が本物の政策にまで落とし込まれるかどうかは、まだ見えていない。
バーナムが目指した「マンチェスターをWeb3大国に」
ケンブリッジ大学出身のバーナムは、トニー・ブレア政権とゴードン・ブラウン政権の双方で閣僚を務めた人物だ。保健相、文化相を歴任し、2010年から2015年にかけては、エド・ミリバンド党首の下で影の教育相、影の保健相を務めた。その後、2015年の労働党党首選に挑んだものの、敗れている。
2015年から2016年にかけては、ジェレミー・コービン党首の下で影の内相を務めた。その後、ウェストミンスターを離れ、2017年にマンチェスター市長へ転じた。
市長時代のバーナムは一貫して、デジタル技術を経済発展の道具として位置づけてきた。都市の成長と雇用創出を支えるエンジンとして、テクノロジーを捉えていたのである。
その姿勢は、スタンド・ウィズ・クリプトとマンチェスター・ブロックチェーン・アライアンスのイベントでもはっきり表れた。バーナムはそこで、こう語っている。
「私は本気で乗っている」
さらに彼は、マンチェスターを「われわれが望むWeb3の一大拠点にする」とも述べた。
もっとも、これが整合性ある国家政策へと発展するかは別問題である。バーナムは市長として、「マンチェスター主義」と呼ばれるモデルを掲げてきた。地方分権、地域経済の自立、官民連携を重視する考え方だ。
つまり、下から積み上げるボトムアップ型のアプローチである。暗号資産業界の一部からは、この考え方こそ全国レベルに広げるべきだ、との声も上がっている。
英国のデジタル資産サービス企業ズーモの創業者兼CEO、ニック・ジョーンズ氏はコインテレグラフにこう語った。
「バーナム氏の暗号資産に関する発言は、これまでのところ、グレーター・マンチェスター市長としての立場に強く影響されてきた。たとえば彼は、デジタルイノベーションと歴史的発展を重ね合わせ、マンチェスターが産業革命の発祥地であり、Web3革命の発祥地にもなり得ると指摘してきた」
「ただし、そうしたキャッチーな言葉は、市長という立場を考えれば当然でもあった。もし彼が首相になるなら、その野心をさらに大きく広げ、英国全体が未来の世界金融システムの中心に位置するようにする必要性を、十分に理解しているはずだ」
英ポンド建てステーブルコイン「tGBP」のCEO、ブノワ・マルズーク氏はコインテレグラフに対し、バーナムのマンチェスターでの経験は「ハンディキャップではない」と語った。むしろウェストミンスターの外で積んだ経験は、「英国全体でデジタル資産業界に適した政策を導入し、加速させる助けになり得る」という。
とはいえ、バーナムはまだ詳細なデジタル資産政策を公表していない。暗号資産に関する公の発言も、具体的な規制上の約束というより、業界への広い意味での期待感を示すものにとどまっている。
金融行動監視機構、いわゆるFCAの暗号資産規制枠組み、ステーブルコイン法制、あるいは暗号資産による政治献金禁止についても、彼は公の場でまだ踏み込んだ見解を示していない。
献金禁止、政治、そしてバーナムに実際何ができるのか
今年3月、スターマー政権は、英国選挙への外国勢力の影響を懸念し、政治キャンペーンへの暗号資産献金を禁止した。
この禁止措置は、元高級官僚で現在はコンサルタントのフィリップ・ライクロフト氏による独立レビューを受けたものだった。同氏は、暗号資産の匿名性に近い性質が、政治資金の透明性にとって容認できないリスクを生むと結論づけていた。
独立レビューの勧告に基づいて導入された政策を覆すことには、政治的リスクが伴う。暗号資産マネーに門戸を開くように見える動きがあれば、労働党左派は厳しく目を光らせるだろう。とりわけ改革UKは、最近の地方選での躍進の資金源として暗号資産を活用してきた経緯がある。
ロイターによれば、海外在住の億万長者からの暗号資産献金により、改革UKは資金集め競争で労働党を大きく上回った。改革UKの党首ナイジェル・ファラージ氏は、タイを拠点とする英国人実業家クリストファー・ハーボーン氏から受け取ったとされる500万ポンド、約660万ドル、円換算で約10億7000万円の贈与を申告していなかったとして、調査対象になっている。
倫理上の懸念が明白であるにもかかわらず、ファラージ氏は、その贈与を選挙運動に使おうが、フェラーリに使おうが、競馬の賭けに使おうが、自分の好きにできるはずだと述べている。
こうした政治的懸念が渦巻くなか、バーナムが一時停止措置を180度ひっくり返す可能性は低いとみられる。
マルズーク氏は、バーナムが見せるのは「政治的な大号令ではなく、実務的な現実主義」になると予想する。tGBPにとって、バーナム政権1年目の成功とは、ステーブルコイン規制枠組みの最終化、政府と英ポンド建てステーブルコインを絡めた実証プログラム、そしてトークン化に関する作業の継続だという。
英国ステーブルコイン発行企業アガントの最高法務責任者、トム・ローズ氏はコインテレグラフにこう語った。
「次の首相が特定の政策に介入するとは考えていない。規制当局は独立性を保っており、暗号資産規制はほぼ固まりつつある」
ジョーンズ氏も、バーナムについて「まだ若いこの分野の根本的な経済的可能性を強く支持してきた人物として記録に残っている」と指摘する。
「もし彼が次の首相になるなら、その立場が変わる可能性は低い。私は、彼が現在の成長重視の政策アプローチを引き続き追求すると考えている」
ただし、移行期間は波乱含みになる可能性がある。ジョーンズ氏は、勢いが一時的に止まる恐れがあると警告する。
「内閣改造が行われれば、進化しつつある規制制度に精通した閣僚が外れる可能性がある。規制当局と業界の双方が認可に向けて準備しているこの重要な転換点で、それが起きれば問題になる」
労働党はまだ、スターマーの後任選びに関する正式な日程を発表していない。ただし、前首相となるスターマーは、NATO首脳会議後の7月9日に候補者受付を始めたい意向を示している。スカイニュースによれば、議会が夏季休会に入る7月16日までずれ込む可能性もある。
勝者となるには、投じられた票の過半数を獲得する必要がある。必要な票数に届く候補がいなければ、選好順位に基づいて再投票が行われることになる。

