
なぜ米国の暗号資産ルールは決まらないのか——「CLARITY法」を止めた〝倫理〟という最後の関門をわかりやすく解説
待望の米暗号資産法案「CLARITY法」が、まさかの〝倫理〟でつまずいた。争点は「大統領のミームコイン禁止」と「そのルールを誰が取り締まるのか」。トランプ大統領が暗号資産で得た含み益は14億ドル(約2300億円)とも報じられるなか、民主・共和両党の言い分を整理する。

長らく待たれてきた米国の「デジタル資産市場明確化法(CLARITY法)」が、またしても暗礁に乗り上げた。
今回、行く手を阻んでいるのはソフトウェア開発者の扱いでも、連邦規制当局同士の縄張り争いでもない。もっと厄介な〝倫理〟である。多くの政治家が倫理をあからさまに軽んじてきたことを思えば、皮肉としか言いようがない。
数カ月に及ぶ交渉、そして暗号資産取引所コインベースのブライアン・アームストロング最高経営責任者(CEO)が「双方で数千時間に及ぶ作業」と表現した積み重ねの末、行動規範をめぐる対立がCLARITY法の命運を決めようとしている。
米国に暗号資産の明確なルールが必要だ——その一点については、ほぼ全員の意見が一致している。だが交渉担当者たちは、法案の倫理条項が十分に強いのか、そして何より「誰がそれを執行するのか」で真っ二つに割れた。
民主党側は、現行案が司法省(DOJ)に頼りすぎていると懸念する。司法省が法の執行を怠った場合には、州の司法長官が乗り出せるようにすべきだという主張だ。
水曜日に発表された共同声明で、民主党の上院議員7人は共和党案を「不十分だ」と切り捨てた。
「選挙で選ばれた公職者の倫理、消費者保護、不正金融、利益相反、市場の健全性に関する条項を含め、重要な規定は強化されなければならない」(上院議員らの声明)
一方の共和党は、倫理条項の執行権限を司法省に残すことにこだわる。連邦のルールは単一の国家的枠組みで執行されるべきだ、という理屈である。弁護士で共和党の元上院議員候補、ジョン・ディートン氏は水曜日、こう述べた。
「CLARITY法は連邦法だ(中略)連邦法を執行するのにふさわしいのは司法省であって、50通りの政治的思惑と50通りの解釈を持つ50人の州司法長官ではない」
法案が上院本会議にかかる前に、議員たちは落としどころを見つけられるのか。それとも倫理論争は、CLARITY法にとって過去最大の障壁となってしまったのか。
最新の倫理案は、何を禁じるのか
水曜日に公表された上院の最新草案は、大統領、副大統領、連邦議会議員、その他の連邦高官、さらにその配偶者が、在職中に暗号資産を発行・後援することを禁じる内容だ。

Democrats oppose current CLARITY text. Source: Senator Ruben Gallego
つまり、将来の〝大統領ミームコイン〟は少なくとも当面は御法度となる。制限が効いているあいだは、トランプ2.0もメラニア2.0も世に出せないというわけだ。
さらにこの案は、暗号資産プラットフォームが対象高官の発行・後援するアセットを上場することも禁じている。
ただし制限には2029年という期限がつく。ドナルド・トランプ大統領の現任期が終わった後だ。しかも対象高官が暗号資産を「保有」すること自体は、引き続き認められる。
民主党「これでは足りない」
民主党は、賛成に回るには法案文にさらなる手直しが必要だと明言している。とはいえ、CLARITY法が絶望的というわけでもない。最後まで法案を見届ける意思も、同時に示しているからだ。
「我々はこの1年、共和党の同僚たちと誠実に作業を進めてきたし、ゴールまで運ぶために今後も続ける」(上院議員らの声明)
アンジェラ・オルソブルックス上院議員は水曜日、メディア「セマフォー」のイベントで、交渉は「かなり近いところまで来ている」と語った。ただし倫理条項が決裂要因であることに変わりはない、とも警告した。メリーランド州選出のこの民主党議員は言う。
「ここまでは支持してきた。だが、倫理に関する規定を含まない法案には、本会議で絶対に賛成しない」
彼女が懸念するのは、ルールの中身だけではない。誰が執行するのか、である。
「司法省が法を執行できず、また執行しようともしないさまを我々は見てきた。彼らに全面的に頼ることはできない。これは絶対だ」(オルソブルックス氏)
論争に油を注いでいるのが、急拡大するトランプ氏自身の暗号資産ビジネスだ。ミームコイン、ワールド・リバティ・ファイナンシャル、その他の保有資産と、実に手広い。
報道によれば、大統領の暗号資産事業が生んだ含み益は14億ドル(約2300億円)。だからこそ利益相反への備えをもっと強くすべきだ、と民主党は訴える。
エリザベス・ウォーレン上院議員が問題視するのは、制限が本当に十分な射程を持っているのかという点だ。マサチューセッツ州選出のこの民主党議員は、最新草案について「トランプ大統領が暗号資産で次の14億ドル(約2300億円)を稼ぐのを、何ひとつ止められない」と斬り捨てた。
米証券取引委員会(SEC)元高官のアマンダ・フィッシャー氏も、草案ではトランプ氏が既存プロジェクトから利益を得ることが依然として可能であり、将来の暗号資産収入への制限も限定的だと指摘する。
共和党「すでに前例のない厳しさだ」
共和党は、倫理条項が甘いという見方を一蹴する。バーニー・モレノ上院議員は草案を「米国史上もっとも強力な倫理規定」と表現し、不十分だとする民主党の主張に真っ向から反論した。

The latest CLARITY Act text. Source: US Congress.
ホワイトハウスと上院で法律顧問を務めたパトリック・ウィット氏は、民主党の反対は次の2つの立場のどちらかに立脚しているように見える、と分析する。州司法長官の関与がない倫理ルールは「無意味だ」という立場か、あるいはトランプ大統領の過去の暗号資産活動を罰していない、という立場である。
「(1)の立場を取るなら、現行の連邦倫理法はすべて無意味だと言っているに等しい。州司法長官が執行できるものなど、一つもないのだから」とウィット氏。「(2)の立場なら、あなたを満足させる手立ては文字通り存在しない。求めているものが明白に違憲だからだ」
法律が完璧でなくとも、現状維持よりは成立させたほうがましだという声もある。ベンチャーキャピタル大手アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者クリス・ディクソン氏は、いまの米国はインターネット黎明期と似た好機にあると指摘する。当時の議員たちは、新技術を時代遅れの規制の枠に押し込めるのではなく、イノベーションが花開くルールを整えた——というわけだ。
ディクソン氏は「完璧な法律などない」と認めつつ、CLARITY法は長らく待たれてきた消費者保護をもたらし、米国のブロックチェーン・イノベーションに規制上の確実性を与えると主張した。
落としどころはあるのか
倫理というハードルにつまずいてはいるものの、業界関係者や政策ウォッチャーの多くは、いまだ合意は手の届く範囲にあると見ている。
ブロックチェーン協会の前CEOで、現在はソラナ・ポリシー・インスティテュートの代表を務めるクリスティン・スミス氏は、最新草案はすでに意味のある妥協の産物だと語る。
「新しい案文には、実質的で他に類を見ない倫理条項が入っている。上院民主党の支持を得るために必要なステップだ」(スミス氏、コインテレグラフの取材に対し)
「だが、かかっているのは倫理だけではない。上院は完全な情報開示制度、不正金融に関する章まるごと、そして現物市場規制の改善を追加している」
より強い倫理条項を求めて法案そのものを潰せば、市場構造法制が丸ごと手に入らなくなる——スミス氏はそう警告する。
「『反対』票がより強い法案を生むシナリオなど存在しない。『反対』票が生むのは、法案ゼロだ。開示制度もなし、不正金融対策もなし、現物市場の改善もなし、倫理条項もなし。何もない」
ステーブルコイン発行体ファースト・デジタルの共同創業者兼CEO、ヴィンセント・チョク氏は、議論が法案の大枠ではなく倫理にまで絞り込まれたこと自体が前進の証だと見る。
「中心的な論点はもはや、暗号資産に規制の枠組みが必要かどうかではない。幅広い支持を得られる枠組みを、どう完成させるかだ」(チョク氏、コインテレグラフの取材に対し)
初日から完璧な規制の枠組みなどまずあり得ないが、企業は時間をかけて進化していく明確なルールになら適応できる、とチョク氏は言う。不確実性が長引くほうが、長期投資も製品開発もはるかに難しくなる、と。
トークン化された現実資産(RWA)に注力するブロックチェーンネットワーク「プルーム」の公共政策責任者、サルマン・バナイ氏もまた、妥協はまだ可能だと考えている。ただし、ホワイトハウスが最初に示した倫理案は「出発点として良いものではない」と釘を刺した。
いまのところ、双方が一致しているのは一点だけだ。妥協はまだ可能である——ただし、それがどんな形になるのかは、最大の未回答の問いのまま残されている。

