
AIがあなたの金を動かす時代へ 英FCAが警告、ステーブルコインとトークン化資産が金融の主役に
FCAが描くエージェンティックAIの未来像は、プログラム可能なマネーやトークン化資産が、金融システムの中でこれまで以上に大きな役割を担う可能性を示している。

英国の金融行為監督機構(FCA)が、個人向け金融サービスをめぐる包括的な規制の青写真を示した。そこで浮かび上がるのは、自律的に動く「エージェンティックAI」によって、リテール金融が一気に完全自動化へ突き進むという未来図である。
FCAのエグゼクティブディレクター、シェルドン・ミルズ氏が主導した画期的な報告書「AI and the future of retail financial services(AIと個人向け金融サービスの未来)」は、金融サービスの構造変化を詳述している。人間が一定のタイミングで判断を下す従来型の金融行動から、AIが常時稼働し、継続的かつ自動的に処理する金融サービスへの移行である。その土台には、プログラム可能な金融インフラが据えられる可能性がある。
ミルズ氏はこう記した。
「中心的な変化は、人間主導で断続的に行われてきた金融活動から、AIに支えられ、継続的で、委任されたサービスへの移行である」
FCAは1月、高度なAIが消費者、個人向け金融市場、そして規制当局に与える影響について調査を開始していた。
147ページに及ぶ今回の報告書は、生成AIと機関投資家による暗号資産採用が交差する転換点で公表された。金融システムが自律的なポートフォリオ管理や資金管理へ移行するなか、従来の法定通貨ベースの銀行インフラでは、機械による取引スピードに構造的に追いつけないとの見方がある。そこで浮上するのが、システム上重要なステーブルコインやトークン化された銀行預金だ。AI駆動型金融サービスの決済インフラになり得る存在として注目されている。
報告書は、FCAが検討すべき7つの提言を示した。その中には、「エージェンティック・ファイナンスの基盤」を整えることが含まれる。これは、エージェンティックAIの利用を支える信頼性のあるエージェント・プロトコルの開発を後押しするものだ。また、金融サービスにおけるAIモデルやシステム革新を支援するため、FCAの「AIラボ」を拡充することも提言されている。
FCAが描く「自律性スペクトラム」上のAIエージェント
いわゆる「ミルズ報告書」が指摘する変化の起点は、AIの急速な進化である。AIは、単なる予測モデルから、自ら動く独立したエージェントへと変貌しつつある。報告書はこれを「自律性スペクトラム」と呼ぶ。その最先端では、人間はもはや意思決定者ではなく、AIが継続的に資本を管理する様子を眺める「観察者」に近い存在となる。
FCAが示した表では、AIの自律性が高まるにつれて、事業者の業務がどのように変化するかが整理されている。

Screenshot of table header that sets out how FCA sees operator activities may change as they move across the AI autonomy spectrum. Source: Financial Conduct Authority.
この変化の加速は、従来の規制当局の想定を上回っている。2025年後半以降だけで、20を超える最先端AIモデルが公開されたという。
ミルズ氏は報告書の序文で、こう警鐘を鳴らした。
「企業は、行動を推奨するシステムから、行動を実行する権限を与えられ、訓練されたシステムへと移行している。そして消費者も近く、自分の代わりに行動するエージェントを手にすることになる」
FCAの調査によれば、英国の成人の20%は、AIに自律的な金融判断を任せることにすでに前向きだという。
こうしたAIエージェントが、複層的な取引戦略を滞りなく実行するには、プログラム可能で即時性のある決済手段が欠かせない。従来型の決済では、数日かかることもある決済の遅れが、運用上のボトルネックとなる。
一方、システム上重要なステーブルコインやトークン化資産は、プログラム可能な台帳ネットワーク上にネイティブに存在している。そのため、自動化されたプロトコルが人間の承認を待たずに資本を即座に動かすうえで必要な、摩擦の少ないアトミック決済を提供できる。
ただし、この自動化は、法的責任をめぐる重大な企業統治上のリスクも生む。
報告書は、この曖昧さに対する業界の不安が高まっていることにも触れている。ある最高経営責任者は、金融セクターではいずれ、市場における人間の意図と自律的なアルゴリズムの行動を正確に見分けるための「チューリングテスト」が必要になるかもしれない、と述べたという。
ペイメンツ・アソシエーションの最高経営責任者、エマ・バニマンドゥブ氏は声明でこう語った。
「FCAのミルズ・レビューは、企業がエージェンティックAIを、今まさに説明責任とガバナンスの問題として扱うべきだと強調している。同時に、AI導入が加速するなかで、責任あるイノベーションを進めるためのより大きな信頼も与えるものだ」
さらに同氏は、AIには金融サービスにとって極めて大きな可能性があるとしつつも、その実現には「強固なガバナンス、明確な説明責任、そして消費者の信頼維持」が不可欠だと述べた。
FCAで8年間務めたのち退任するミルズ氏は、報告書公表に先立ち、フィナンシャル・タイムズに対し、AIモデルの行動については依然として管理者が責任を負う必要があると語っていた。
「AIが何をしているのかについて、責任を負う人間が必要だ」
AIが財布を握り、暗号資産由来のトークン化マネーが決済を担う。そんな金融の新時代が、もはや絵空事ではなくなりつつある。

