
ステーブルコインUSDC、20億円分凍結 発行体サークル社が権限発動
The $12.6 million in USDC was likely frozen in connection with an ongoing but unrelated civil court case, according to onchain sleuth ZachXBT.

ステーブルコインは、本当に「自分の金」なのか。
暗号資産業界に、またひとつ冷たい現実が突きつけられた。米サークル社が発行するドル連動型ステーブルコイン「USDC」1260万ドル、円換算で約20億円が凍結されたというのだ。
対象となったのは、プライバシー技術を扱うプロトコル「Zama」に関連するUSDC。オンチェーン調査で知られるZachXBT氏が明らかにした。凍結されたのはZamaの「confidential USDC」スマートコントラクトに関連する資金だった。
Zamaは、ブロックチェーン上で機密性の高い計算を可能にするプライバシー系プロトコルである。普通のブロックチェーンでは、取引履歴や残高は基本的に見える。透明性が売り物である一方、企業や金融機関にとっては、取引情報が丸見えになることが弱点にもなる。

Source: ZachXBT
そこで、Zamaのようなプライバシー技術が注目されてきた。要するに「ブロックチェーンの透明性」と「金融取引の秘匿性」を両立させようという試みである。
だが、その実験場で、いきなり資金が凍った。
ZachXBT氏によれば、Zama側はCircleによる凍結について、事前に通知を受けていなかったとみられる。コインテレグラフはサークル社にコメントを求めたが、記事公開時点で回答はなかった。
問題は、凍結の理由がはっきりしないことだ。
ZachXBT氏は、今回の凍結は進行中の民事訴訟に関連したものではないかとみている。さらに、DeFiプロトコル「Overnight Finance」に関連するウォレットが、5月11日に1240万ドル、円換算で約19億8000万円をZamaプロトコルに入金していたとも指摘した。
Overnight Financeでは最近、チームによる資金持ち逃げ、いわゆる「ラグプル」を疑う声がホルダーから上がり、財務資金の分配を巡るガバナンス投票が行われていたという。
ここまで聞くと、サークル社が怪しい資金を止めたのなら当然ではないか、と思うかもしれない。
だが、話はそう単純ではない。
ZachXBT氏が問題視しているのは、資金が混ざり合ったプロトコルやスマートコントラクト全体を、一方的に凍結するという前例である。もし疑わしい資金が一部混じっていただけで、ほかの正当な利用者の資金まで巻き込まれるなら、DeFiの世界では重大な問題になる。
銀行口座なら、名義人も取引履歴も当局が把握できる。だが、DeFiでは資金がスマートコントラクトを通じて混ざり合う。流動性プール、ブリッジ、プライバシー技術、レンディング。資金の経路は複雑で、誰の金がどこまで汚染されたのか、簡単には切り分けられない。
そこに、ステーブルコイン発行体の「凍結権限」が入ってくる。
USDCは、米ドルと1対1で連動するよう設計されたステーブルコインだ。暗号資産市場では、ドルの代わりに使われる。DeFiでも、取引所でも、決済でも、USDCは清潔で規制に近いドルとして扱われてきた。
しかし、USDCには発行体がいる。サークル社である。
そして発行体がいるということは、凍結できるということでもある。ビットコインのように、誰も止められない資産ではない。むしろ、規制当局や裁判所、コンプライアンス判断の影響を受けやすい「管理されたデジタルドル」だ。
これは、ステーブルコインの強みでもあり、弱みでもある。
強みは、規制に対応できること。盗難や詐欺、制裁対象の資金を止められること。だからこそ、企業や金融機関も使いやすい。
弱みは、その同じ仕組みが、正当な利用者の資金まで止める可能性を持つことだ。
Circleはこれまでも批判を浴びてきた。ZachXBT氏は3月、サークル社が米国の民事訴訟に関連して、オンラインカジノや正当な暗号資産交換業者に紐づく16のステーブルコインウォレットを「誤って」凍結したと主張していた。さらに同氏は、2022年以降、詐欺やハッキングで盗まれた資金を巡る15件の事案で、サークル社が約4億2000万ドル、円換算で約669億円を凍結し損ねたとも批判している。

A list of 15 incidents since 2022, in which Circle failed to freeze funds, according to ZachXBT. Source: ZachXBT
つまり、批判は二重である。
本当に止めるべき盗難資金は止めない。一方で、関係の薄い正当な資金は止める。もしそうなら、ステーブルコインの信頼は揺らぐ。
4月には、Drift Protocolのハッキングで盗まれた2億3200万ドル、約370億円のユーザー資金について、Circleが6時間の猶予があったにもかかわらず凍結しなかったとされる。その後、利用者はサークル社を相手取り集団訴訟を起こした。
暗号資産の理想は、「自分の資産は自分で管理する」ことだった。
だが、USDCのようなステーブルコインは、その理想とは少し違う場所にある。ウォレットに入っていても、スマートコントラクトに預けていても、発行体の判断で動かなくなる可能性がある。画面上では自分の残高に見えても、最後のスイッチは別の誰かが握っている。
それでも、ステーブルコインは必要とされる。
ビットコインやイーサは値動きが激しすぎる。DeFiや国際送金、オンチェーン決済には、価格が安定したデジタルドルが不可欠だ。だからUSDCやUSDTは広がった。利用者は、中央集権的な管理リスクを理解しながらも、その便利さを選んできた。
今回のZama関連USDC凍結は、その取引の代償を見せつけた。
プライバシー技術を掲げるプロトコルに、規制対応型ステーブルコインが入り、そこに疑わしい資金が混ざり、発行体が凍結する。DeFi、プライバシー、コンプライアンス、民事訴訟。それぞれの理屈が、ひとつのスマートコントラクトの上で衝突した。
暗号資産は自由を語る。
だが、ステーブルコインはドルを語る。
そしてドルを語るかぎり、国家と発行体の影からは逃れられない。
1260万ドルの凍結は、金額以上の意味を持つ。これは、オンチェーン金融が成熟する過程で避けて通れない問いである。
誰が資金を止めるのか。
誰が「汚れた金」と「正当な金」を見分けるのか。
そして、その判断を間違えた時、誰が責任を取るのか。
ブロックチェーンの世界では、コードが法律だと言われてきた。
しかしUSDCが凍った瞬間、そこに現れたのはコードではなく、発行体の手だった。

