
英国、ステーブルコイン覇権争いでまさかの自爆か 発行上限に業界が警戒
イングランド銀行が、システム上重要なステーブルコイン規制案を公表した。準備資産要件は緩めたものの、保有限度の代わりに400億ポンド、約8兆5600億円の“一時的な発行上限”を突きつけた。

イングランド銀行(BoE)は月曜日、システム上重要なステーブルコインに関する政策声明と規則案を公表した。英国で、英ポンドに裏付けられた規制対象ステーブルコインをどのように運用していくのか。その青写真が、ようやく姿を現した格好だ。
BoEがいう「システム上重要なステーブルコイン」とは、決済で広く使われ、英国の金融安定にリスクを及ぼし得るものを指す。どのステーブルコインがこの制度の対象になるかは、英国財務省が判断する。
今回の政策声明では、システム上重要なステーブルコイン発行体について、準備資産の最大70%を利息の付く政府債務で保有することが認められる。従来案では60%だったため、業界側に一定程度歩み寄った形だ。
また、保有上限案も見直された。代わりに導入されるのは、一時的な400億ポンド、約8兆5600億円の発行上限である。ドル換算では528億ドル、約8兆5300億円となる。
中央銀行は月曜日に公表した発表文で、こう説明した。
「このガードレールは定期的に見直され、信用供給へのリスクが解消された段階で撤廃される」
もっとも、この案には早くも冷ややかな声も上がっている。
コインベースの欧州政策責任者であるケイティ・ハリーズ氏は、英国が自国通貨建てステーブルコインの発行額に上限を設ける唯一の国になると指摘した。
ハリーズ氏は、コインテレグラフに共有した声明でこう述べている。
「英国がステーブルコインのもたらす利益を十分に取り込むには、なお2つの問いが残っている。1つは、1銘柄ごとの発行上限における『一時的』とは何を意味するのか。もう1つは、中核的なホールセール市場の決済にステーブルコインを使えるのかどうかだ。これがなければ、英国のトークン化への野心は実現しない」
2027年の規則導入を目指す
とはいえ、今回の動きにより、英国はステーブルコイン専用の規制枠組みの導入に一歩近づいた。
BoEは2026年末までに規則集を最終化し、2027年の導入を目指している。
クリアバンクのマーク・フェアレスCEOは、コインテレグラフに共有した声明で、今回の変更を一定程度評価した。
「イングランド銀行は、保有限度について明らかに業界の声に耳を傾けた。複雑で制限的なアプローチから、より比例的な枠組みに移行した。これは前向きな一歩だ」
一方で、同氏はこうも釘を刺す。
「しかし、特に裏付け資産の要件を通じて、制度が持続可能なビジネスモデルを制約しないよう、さらなる進展が必要だ」
業界の反発を受け、方針を転換
今回の発行上限というガードレールは、BoEが2025年11月の市中協議で示していた保有限度案に代わるものだ。
当初案では、個人は1つのステーブルコインにつき2万ポンド、約428万円まで。企業は1つのステーブルコインにつき1000万ポンド、約21億4000万円までに制限される予定だった。

Systemic stablecoins entail payments and retail-focused tokens.
Source: Bank of England
当時、BoEはこの制限について、銀行システムから預金が大規模に流出するのを防ぐために必要だと主張していた。預金がステーブルコインに移れば、家計や企業への信用供給が減る恐れがある、という理屈である。
しかし、市中協議の回答者からは、こうした制限はステーブルコインの使い勝手を損ない、発行体に実務上の難題をもたらすとの警告が相次いだ。
BoEは今回の新方針について、家計や企業による自由な利用を認めつつ、同じ政策目的を達成するためのものだとしている。
フェアレス氏はこう述べた。
「最終的に目指すべきは、真にリスクベースの枠組みであり、画一的なアプローチではない。そうでなければ、英国は他市場が前進する中で、ポンド建てステーブルコインをスタートラインに置き去りにする危険がある」
今回の制度は、システム上重要と判断されたステーブルコインにのみ適用される。主に暗号資産取引で使われる非システム上重要なステーブルコインについては、引き続き英国金融行動監視機構(FCA)の監督下に置かれる。
5月には、BoEのサラ・ブリーデン副総裁が、デジタル資産企業からのフィードバックを受け、保有限度と準備資産要件の見直しを進めていると述べていた。業界側は、こうした制限が普及の妨げとなり、英国発行のステーブルコインを、米ドル裏付けのライバルに比べて不利にしかねないと訴えていた。

