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Christina CombenライターAndrew Fenton監修編集者

12年眠ったビットコインが突然動いた──1億6000万円分を「焼却」した謎の古参保有者、マウントゴックスとの接点も

Magazine公開日2026年9月1日

約12年間動かなかったウォレットから20BTCが大手カストディ事業者へ送金され、3週間後にほぼ全額が戻ってきた。ところが、そのわずか7週間後、ビットコインは二度と使えないアドレスへ送られ「焼却」された。チェイナリシスの分析から浮かんだのは、マウントゴックス時代からビットコインを保有していた可能性のある“古参”の存在だ。だが、なぜ1億6000万円もの資産を自ら消したのか。謎はいまだ解けていない。

3月、ある人物が100万ドル(約1億6000万円)相当のビットコイン(BTC)を、大手暗号資産カストディ事業者を経由して動かした。

それだけなら、さほど珍しい話ではない。

ところが3週間後、ほぼまったく同じ量のビットコインが元のウォレットに戻ってきた。そして驚くべきことに、それから2カ月も経たないうちに、そのビットコインは意図的に「焼却」された。つまり、永久に使えないアドレスへ送り込まれたのである。

このウォレットは、それまで約12年間にわたって眠り続けていた。

ビットコイン教育者のベネットによると、ウォレットは20.00010537BTCを「何らかのカストディ事業者」に送り、その後、約3ドル(約480円)分を差し引いたほぼ同額を受け取っている。

「残高のすべてが、取引所のホットウォレットらしき場所へ送られ、3週間後にほぼまったく同じ額が戻ってきた。そして、その7週間後に焼却された」

この不可解な取引は、5月に起きた合計107BTCの謎の焼却の一部だ。当時の価値は約850万ドル(約13億6000万円)に上った。

最新のブロックチェーン分析では、最終的にビットコインを焼却した5つのウォレットが、同一人物によって管理されていた可能性が高いことも判明している。

しかも、その人物はビットコイン黎明期からの保有者で、かつて経営破綻したマウントゴックスに資金を置いていた可能性があるという。

では、なぜ数百万ドルものビットコインを、わざわざ自らの手で消してしまったのか。

そこには、いまだ明確な答えがない。

焼却されたBTCを持っていた5つのウォレット

チェイナリシスによると、最終的にビットコインを使用不能なアドレスへ送った5つのアドレスには、「共通の所有者を示す強い兆候」がある。

ビットコインを“焼却”する仕組みについてのベネットの解説によれば、5つのウォレットはいずれも2014年4月の同じ日に初めて資金を受け取っていた。

How to destroy Bitcoin. Source: Bennet.org

その後、それぞれのウォレットは、大手中央集権型取引所にある同一の入金アドレスへ、ドル換算でほぼ同じ金額になるBTCを送っている。

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さらに不可解なのは、5つのアドレスが“交代制”のように動いていたことだ。

あるウォレットが取引所への送金を続け、その活動が止まると、別のウォレットが「似た頻度と金額」で送金を始める。

チェイナリシスによると、資金の大半はマウントゴックスまでさかのぼることができるという。

「所有者がビットコインの初期採用者だったことを示唆している」

もっとも、これはマウントゴックスから直接引き出されたBTCだったことを意味するわけではない。

マウントゴックスは2014年2月に取引を停止しており、問題の5つのウォレットに資金が入ったのは同年4月だからだ。

ベネットはこう指摘する。

「このビットコインの所有者が、取引所が崩壊する前に運よく資産を引き出すことができた人の一人だった可能性は十分にある」

一方、BTCが送られていたカストディ事業者がどこなのかは、現在も特定されていない。

チェイナリシスは、大手中央集権型取引所であることは確認しているものの、同社が特定したサービス名を公表することはないとしている。

ベネットの分析では、このアドレスは大手カストディ事業者が顧客向けに発行する固定入金アドレスのような動きをしている。

理由は単純だ。

このアドレス自体は残高を維持せず、入金された資金は数十もの別の入力を含む取引へまとめられた後、さらに事業者の一括管理ウォレットへ統合されている。

ひとたびBTCがカストディ事業者の内部システムに入ってしまえば、その後コインがどう扱われたのかを公開ブロックチェーンから追跡することはできない。

だからこそ、このウォレットが過去に行っていた取引が、さらに興味深い意味を持ってくる。

浮かび上がった「1万400ドル」の法則

5つのアドレスのうち1つは、2022年から2024年にかけて60回に分け、合計19.6BTCを同じカストディ事業者へ送金していた

送金されたBTCの量は、約0.15BTCから0.62BTCまでバラバラだった。

This address sent 19.6 BTC in 60 transactions to the same custodian. Source: Mempool.space

ところが、ドルに換算すると奇妙な共通点が浮かび上がった。

この期間、ビットコイン価格は4倍以上に上昇している。

にもかかわらず、60回の送金のうち58回は、送金時点の価値が約1万400ドル(約166万円)の±10%以内に収まっていた。

つまり、所有者は毎回同じ量のBTCを送っていたのではない。

毎回、ほぼ同じ「ドル金額」になるようにBTCの量を調整して送っていたのだ。

ベネットはこう見る。

「これは計画的な換金戦略だったのではないかと思わせる」

ただし、この説をブロックチェーン上のデータだけで証明することはできない。

BTCがカストディ事業者へ入った後、大量の別のコインと混ぜられているため、そのBTCが売却されたのか、保有されたのか、あるいは別の場所へ送られたのかは分からないからだ。

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もう一つ面白い点がある。

ベネットによると、「1回あたりの送金額は一定だった」が、「送金頻度は一定ではなかった」という。

約1万ドル(約160万円)の送金は、一定間隔ではなく、まとまって発生していた。

機械的な自動売却スケジュールというより、必要が生じるたびに一定のドル金額を送金していた人物の行動にも見える。

そして起きた「100万ドルの往復」

約1万400ドルずつの取引は、ウォレット所有者とカストディ事業者の過去の関係を説明する手がかりにはなる。

だが、3月に起きた100万ドル(約1億6000万円)の“往復”については、ほとんど何も説明してくれない。

約12年間、一度も動かなかったウォレットは突然、残高すべてとなる20.00010537BTCを送金した

そして戻ってきたのは20.00006037BTC。

差はわずか4500サトシ、約3ドル(約480円)だった。

これは「単にBTCを取引した」という説明とは整合しにくい。

カストディ事業者の内部で何が行われたにせよ、ほぼまったく同じ量のBTCが戻ってきたからだ。

This address sent 20 BTC and received 20 BTC back. Source: Mempool.space

しかも、戻ってきたビットコインは一括ではなかった。

7BTC、7BTC、6.00006037BTCの3回に分け、3日連続で送金されている。

ベネットは、この丸い数字について、カストディ事業者側が設定した1日あたりの出金上限だった可能性を指摘している。

さらに重要なのは、BTCが別の新しいウォレットへ移されたわけではないことだ。

最初に20BTCを送り出した、まさに同じアドレスへ戻されている。

取引履歴を見る限り、往復の前後で同じ秘密鍵の保有者がBTCを管理していたことも分かると、ベネットはいう。

3月にBTCを動かすには秘密鍵が必要だった。

そして5月にBTCを焼却する際にも、同じ秘密鍵が必要だった。

一般的な取引所取引として説明しようとすると、どうにも辻褄が合わない。

では、なぜそんなことをしたのか

いくつかの仮説はある。

しかし、すべての証拠をきれいに説明できるものは一つもない。

まず考えられるのが「換金説」だ。

過去の約1万400ドルずつの取引については、ある程度説明がつく。

しかし、なぜ3月になって約100万ドルを同じカストディ事業者へ送り、ほぼ全額を再び引き出したのかは説明できない。

12年間眠らせていた古いウォレットやカストディ環境が現在も使えるかどうかをテストした可能性もある。

大手カストディ事業者を経由させ、無事に同じウォレットへ戻すことで、古い秘密鍵もカストディ環境も問題なく機能することを確認した——そう考えれば筋は通る。

だが、それならなぜ、その後BTCを焼却したのか。

税務やコンプライアンス上の理由も考えられる。

古い資産を大手カストディ事業者経由で一度動かす必要があった可能性は否定できない。

とはいえ、この取引を特定の税制や規制上の出来事と結びつける証拠はない。

プライバシー目的という可能性もある。

入金されたBTCを一括管理ウォレットへ集約するカストディ事業者を経由すれば、その後コインがどう動いたのかをオンチェーンで追跡することは格段に難しくなる。

十分あり得る話ではある。

しかし、それでも最終的になぜBTCを焼却したのかは分からない。

そもそも、焼却そのものが何らかの「メッセージ」だった可能性もある。

だが、数人のブロックチェーン調査者を除けば、この出来事はほとんど誰にも気づかれなかった。

ビットコインの焼却は取り消せない。

秘密鍵を持つ人物は、単にBTCを放置するのではなく、二度と使えない場所へ送ることを自ら選んだ。

ベネットは、こんな可能性も挙げている。

「相続人のいない非常に裕福な人物が、秘密鍵を単に破棄するのではなく、コインを永久に焼却することを選んだ可能性もある。そうすれば、ビットコインの総供給量を公に減らすことができる」

現時点では、ブロックチェーン分析のプロでさえ答えを持っていない。

チェイナリシスもこう認めている。

「長期間動いていなかった資産を所有者がカストディ事業者へ送り、ほぼ同じ量を取り戻し、その後意図的に焼却した理由について、明確な説明は得られていない」

ブロックチェーンは、「何が起きたのか」については驚くほど詳細な記録を残してくれる。

だが、「なぜ起きたのか」までは教えてくれない。

少なくとも今のところ、この謎こそが文字どおり“100万ドルの問い”として残されている。

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