暗号資産交換業大手のバイナンスが、ついに米国株取引に乗り出した。対象となる利用者は、米国株やETFを手数料ゼロで売買できるようになる。暗号資産だけでは飽き足らず、株式、ETF、トークン化資産まで抱え込む――。世界最大級の暗号資産業者が、いよいよ伝統金融の領域に本格的に足を踏み入れた格好だ。
バイナンスによれば、取扱対象は7000銘柄超の株式と上場投資信託(ETF)。最低投資額は5ドル、現在の為替水準で約800円にすぎない。端株にも対応し、一部銘柄は週5日、1日24時間取引できるという。ドル円は足元で1ドル=159円台半ばで推移しており、5ドルは約797円となる。
同社が掲げるのは、単なる暗号資産取引所からの脱皮だ。株式、ETF、暗号資産、トークン化証券を一つの口座で扱える「複数資産対応の金融スーパーアプリ」を目指すという。
この動きは、米コインベースなどとの競争を一段と激しくしそうだ。コインベースも2025年12月、米国株とETFの手数料無料取引を開始し、週5日・24時間取引に対応した。暗号資産業界の大手各社は、もはやビットコインやイーサリアムだけを並べていれば済む時代ではないと見ている。
バイナンスのリチャード・テン共同最高経営責任者(CEO)は「トークン化は、利用者により大きな管理権と柔軟性、最終的には金融上の自由を与えることで、金融市場を再構築する可能性がある」と強調する。要するに、伝統金融もデジタル資産も、まとめてバイナンスの土俵に乗せたいというわけだ。
今回のサービスは、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)に拠点を置く同社のブローカー・ディーラー、Nest Trading Limitedを通じて提供される。

Source: Binance
トークン化株式の購入には、主に米サークルのステーブルコイン「USDC」を使う。BNB、テザーの「USDT」、ワールド・リバティ・ファイナンシャルUSD(USD1)、ユナイテッド・ステーブルズ(U)にも対応する予定だ。売却代金はUSDCで受け取る仕組みとなる。
さらに、対象利用者は保有株式を貸し出して収益を得る「Fully Paid Securities Lending(FPSL)」も利用できる。株を持っているだけで貸株収入を狙えるという、証券会社ではおなじみの仕組みまで取り込む。
次の一手は「bStocks」
バイナンスが次に用意しているのが、米国株やETFを裏付けとするトークン化証券「bStocks」だ。
同社によると、bStocksは今後数週間以内に開始する計画で、ADGMに登録された特別目的会社(SPV)であるBTECH Holdings LTDが発行する。対象は米国株とETF。つまり、アップルやテスラといった米国株そのものではなく、それらを表すトークン化証券を取引する形になる。
ただし、開始には規制当局の承認が必要だ。バイナンスは現在、オンタリオ州金融サービス規制庁(FSRA)の承認待ちとしている。承認されれば、bStocksはバイナンス取引所で売買できるようになる。
暗号資産交換業者が株式市場に接近する流れは、バイナンスだけではない。4月初めには、ビットゲットがイーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業スペースXのIPO前段階に連動する商品を始めた。クラーケンも2025年4月、米国上場株式とETF計1万1000銘柄の手数料無料取引を発表している。ビットパンダも1月に、約1万銘柄の株式とETFを扱う方針を示した。
かつては「暗号資産の売買所」だった各社が、いまや株式、ETF、ステーブルコイン、貸株、トークン化証券までのみ込もうとしている。金融の境界線は、じわじわと消えつつある。バイナンスの新サービスは、その象徴的な一手と言えそうだ。

