
SEC新ルールでトークン販売が簡単に? 最大119億円調達でもICO狂騒は戻らない
SECが提案した「レギュレーション・クリプト・アセット」は、米国での暗号資産トークン販売に新たな道を開く可能性がある。だが専門家は、2017年のICOバブル再来には慎重だ。

長い長い準備期間を経て、米証券取引委員会(SEC)が提案した新ルール「レギュレーション・クリプト・アセット」が、ついに米国での公開トークン販売を容易にするかもしれない。
この提案では、条件を満たした発行体が12カ月間で最大7500万ドル、約119億円を調達できるようになる。さらに、プロジェクト側はネットワークを構築しながら、毎年のように投資家のもとへ戻り、追加資金を募ることも可能になる見込みだ。
つまり、トークンによる資金調達に「段階的なモデル」が生まれる可能性がある。初期ラウンドの割当は、後の高い評価額を見込む投資家にとって、より魅力的なものになるかもしれない。
ただし、シャンパンを冷やすのはまだ早い。デューク大学の講師で金融規制の専門家であるリー・ライナーズ氏は、2017年のような自由奔放なICOブームが戻る可能性は低いとMagazineに語った。
「私の初見では、7500万ドルの免除枠によって公開トークン販売はより現実的になる可能性がある。ただし、ICOブームの再来を生むとは考えにくい」
プロジェクトは毎年119億円を調達できるのか
SECが8月18日に公表した提案は、暗号資産をめぐる一定の投資契約について、2つの免除制度を設けるものだ。

SEC Proposes New Regulation Crypto Assets. Source: SEC
1つ目はスタートアップ向けで、4年間で最大500万ドル、約7億9600万円までの募集を認める一回限りの免除。2つ目はより大規模な資金調達を想定したもので、12カ月ごとに最大7500万ドル、約119億円までを認める。
後者は、部分的にレギュレーションAをモデルにしており、開示義務や継続的な報告義務も伴う。
では、この7500万ドルという上限が12カ月ごとのローリング方式であるなら、プロジェクトはまず7500万ドルを集め、1年開発し、翌年また7500万ドルを集めることができるのか。
答えは、どうやらイエスである。
ウィンストン&ストローンのパートナーであるドリュー・ヒンケス氏はMagazineに対し、12カ月の制限は「実際に別個の募集である限り」、12カ月ごとに7500万ドルの「連続調達」を可能にすると語った。
では、落とし穴はどこにあるのか。
シドリーのグローバル・フィンテック・ブロックチェーン部門を率いるパートナー、リリア・テスラー氏は、「発行体がこの免除を複数回利用することを妨げるものはない」としつつも、それぞれの調達は「自動的に認められるものではない」と話す。
追加調達には、新たな募集書類の提出とSECスタッフによる審査が必要になる。発行体は年次報告書と半期報告書を提出し続ける必要もある。さらにテスラー氏によれば、「上限を確認できるよう、過去12カ月に免除制度の下でいくら調達したかを開示する」必要がある。
それでも、現状と比べれば大きな前進だ。たとえば総額2億2500万ドル、約358億円を求めるプロジェクトなら、資金を分割して調達し、より成熟したネットワークと高い評価額を武器に、後から再び投資家の前に立つことができる。
上限がFOMOを生むのか
そこで当然、次の疑問が浮かぶ。7500万ドルの上限があることで、初期トークンの割当が希少化し、一攫千金を狙うFOMOが初回ラウンドに殺到するのではないか。
あり得る。ライナーズ氏は、それも1つのシナリオだと述べる。
「投資家が、成功した発行体は後の募集をより高い評価額で行うと予想するなら、初期割当は限定されているからこそ魅力を増す可能性がある」
もっとも、それは現在の多くのトークン販売や株式販売の構造と大きく変わらない。スペースXは最近のIPOで、全株式の5%未満しか売却しなかった。テスラー氏はこう指摘する。
「トークン販売でも、従来型証券の免除募集でも、希少性はこの提案よりずっと前から存在していた。発行体はこれまでもラウンド規模を制限できたし、今後もそうできる」
非適格投資家も、かつてのように1つのトークン販売に「全ツッパ」することはできない。テスラー氏によれば、SEC案では、どのラウンドに参加する場合でも、購入額は「所得または純資産の大きい方の10%」に制限される。
なぜ2017年の再来にはならないのか
2017年が戻ってこない理由は、ほかにもある。なにより、暗号資産投資家の一世代は、過去のICOが掲げた大風呂敷とひどいトークノミクスで痛い目を見ている。2017年から2019年にICOで資金を集めたプロジェクトの最大90%は失敗に終わった。
ライナーズ氏は、資金調達市場は「投資家の食欲、トークン経済、流動性、カストディ、そして前回のICOサイクルが残した評判の傷」によって形づくられると指摘する。
SECは、2つの新たな免除制度を毎年およそ130件の募集が利用し、より広い投資契約セーフハーバーについては約475の発行体が利用する可能性があると見積もっている。津波というより、じわりと流れ込む細い水流である。

SEC proposed long-awaited regulation for primary token issuance. Source: Galaxy.
それでも、このSEC案は、米国の証券法という地雷原を進むトークン発行体にとって、かなり前向きな材料だ。テゾスやテレグラムが米国証券法をめぐる数百万ドル規模の法廷闘争に巻き込まれた当時、喉から手が出るほど欲しかったであろう道筋である。
発行体に対し、自らの募集が既存の証券法の枠組みに収まるかどうかを自己判断させるのではなく、SECは資金調達のための明示的な規制ルートを提案している。暗号資産弁護士のジェイク・チェルヴィンスキー氏がXで述べたように、「一日たりとも早すぎることはない」。
トークンが取引され始めたら何が起きるのか
ただし、地雷は残っている。SEC案では、暗号資産に関連する投資契約は、その暗号資産が発行体の説明や約束から切り離されるまで、二次市場取引で後続の買い手に移転し続ける可能性があるとしている。
言い換えれば、証券ではないトークンを売るチームが、二次市場の投資家に対して「重要な経営努力によって利益を期待できる」と受け取られるような示唆をすれば、そのトークンは投資契約の対象になり得る。
ヒンケス氏は、そこに潜在的な問題を見る。
「非証券の対象暗号資産の取引によって、投資契約が売り手から買い手へ移転する場合、その暗号資産の売却が証券取引と見なされるリスクがある」
これは取引所やその他の取引施設にとって問題になり得る。
新たな資金調達ルート、古いリスク

SEC moves forward with Reg Crypto. Source: Jake Chervinsky
SEC、Reg Cryptoを前進。出典:ジェイク・チェルヴィンスキー
トークンが証券と非証券の狭間に落ち込む可能性については、ライナーズ氏も懸念している。同氏は、プロジェクトが投資家保護という根本的な問題に向き合わないまま、新たな枠組みの中でうまく立ち回る術を学ぶ可能性があると語る。
「公開募集の免除制度は、規制裁定の手段になり得る。トークン発行体は、免除販売の形式的条件を満たしながら、その価値が発行体の経営努力に大きく依存する資産を売り込み続けるかもしれない」
そうなれば、個人投資家は10年前と同じグレーゾーンに置き去りにされる。見えにくい開示、内部者に集中した保有、そして強引なプロモーションにさらされることになる。

