
トランプ氏「暗号資産法案を今すぐ通せ」自身は暗号資産で約2273億円稼ぐ“利益相反”の衝撃
トランプ米大統領が、急逝したリンジー・グラム上院議員の遺志を理由に「クラリティ法案」の成立を要求した。だが、グラム氏が同法案を公に支持した記録は確認できない。さらに民主党は、暗号資産事業で約2273億円を稼いだトランプ氏自身の「利益相反」を問題視している。

ドナルド・トランプ米大統領が、週末に死去したリンジー・グラム上院議員を持ち出し、暗号資産市場のルールを定める「デジタル資産市場明確化法案」、通称クラリティ法案の成立を迫っている。
「グラム議員をたたえるためにも、法案を通せ」
トランプ氏は月曜日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」にそう投稿した。グラム氏について、クラリティ法案の「熱心な支持者だった」と主張し、上院議員らに速やかな採決を求めた。
グラム氏は土曜日、71歳で死去した。上院では2003年からサウスカロライナ州選出議員を務めてきた重鎮である。
米議会に残された時間は、そう多くない。
上院が8月の約1カ月間に及ぶ地元活動期間に入るまで、審議できるのは残り4週間。暗号資産市場の包括的な規制法案を成立させるには、わずかな時間しか残されていない。

Source: Donald Trump
「大支持者」のはずが、投票も発言も見当たらない
ところが、ここで一つの疑問が浮かぶ。
グラム氏は本当に、クラリティ法案の「大支持者」だったのか。
グラム氏は今会期、法案を担当する上院銀行委員会にも農業委員会にも所属していなかった。さらに、クラリティ法案の審議を前進させる投票にも参加していない。
2025年には、米国のステーブルコイン規制を定める「ジーニアス法案」に賛成票を投じている。しかし、クラリティ法案を直接支持する公の発言は、少なくとも確認されていない。
つまりトランプ氏は、本人がどこまで支持していたのか定かではない法案を、「亡きグラム氏のため」という大義名分で押し通そうとしている格好だ。
SECからCFTCへ――暗号資産規制の主役を交代
クラリティ法案は、米国の暗号資産規制を大きく塗り替える可能性を持つ。
現在、暗号資産の取り締まりや監督では、米証券取引委員会(SEC)が大きな権限を握っている。しかし同法案が成立すれば、その権限の多くが米商品先物取引委員会(CFTC)へ移される見通しだ。
暗号資産を「証券」として厳しく規制してきたSECから、商品や先物を扱うCFTCへ主導権を移す――。業界にとっては、規制環境を大きく好転させる一手となり得る。
だが、上院民主党は簡単には首を縦に振らない。
民主党議員の多くは、政治家と暗号資産業界との利益相反を防ぐ条項が盛り込まれない限り、法案を支持しない構えを示している。
その最大の標的が、ほかならぬトランプ氏自身である。
トランプ氏は自身のミームコインに加え、一族が関与する暗号資産企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」とも深い関係を持つ。民主党側は、大統領が自ら利益を得ている業界に有利な法律を成立させようとしているのではないかと警戒している。
共和党は51議席、単独突破は困難に
グラム氏の死去に加え、ミッチ・マコネル上院議員も入院している。
これにより、上院における共和党の実働勢力は51対47まで縮小した。法案を通過させるために必要な60票へ到達するには、民主党から少なくとも9人前後の協力を取り付ける必要がある。
共和党だけで押し切ることは、事実上不可能だ。
コインテレグラフは、ティム・スコット、カーステン・ギリブランド、アンジェラ・オルソブルックス各上院議員の事務所に、トランプ氏の発言への見解を求めたが、記事掲載時点までに回答はなかった。 (Cointelegraph)
一方、暗号資産推進派として知られるシンシア・ルミス上院議員は、Xへの投稿でトランプ氏に同調した。
ルミス氏はグラム氏について、「米国があらゆる分野で世界の先頭に立ち続けることに情熱を注いでいた。暗号資産もその一つだった」と主張した。
ただしコインテレグラフが、グラム氏の暗号資産政策に対する具体的な立場についてルミス氏の事務所に説明を求めたところ、こちらも直ちに回答は得られなかった。
ホワイトハウスの暗号資産政策顧問、パトリック・ウィット氏もXで、「これ以上、先延ばしにする余裕はない」と法案成立を訴えた。
トランプ氏、暗号資産事業で約2273億円
民主党側の追及も激しさを増している。
先週、上院民主党の有力議員5人は、トランプ氏が提出した2025年の資産開示報告をめぐり、議会で公聴会を開くよう要求した。
開示資料によると、トランプ氏は暗号資産関連事業から約14億ドル、現在の為替レートで約2273億円の収入を得たと報告している。
5人はいずれも、上院の委員会または小委員会で民主党トップを務める議員だ。
議員らは、巨額の暗号資産収入について「大統領が自らもうけている業界に有利な暗号資産法案を、議会に通させようとしているとの懸念を一層強めるものだ」と批判した。
亡き議員の「遺志」を掲げ、法案成立を急がせるトランプ氏。
しかし、その法案が成立すれば恩恵を受ける可能性があるのは、暗号資産業界だけではない。約2273億円もの収入を得たとされる、大統領本人でもある。
「弔意」なのか、それとも「商売」なのか。
クラリティ法案をめぐる議論は、暗号資産の規制問題を超え、トランプ政権そのものの倫理問題へと発展しつつある。

