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Sam Bourgistaff writerRobert Lakin監修staff editor

TrezorがUSDT・USDC運用を開始、DeFi嫌いのユーザーを取り込めるか

最新ニュース公開日May 29, 2026

この機能により、ユーザーは外部ウォレットを接続したり、個別のDeFiアプリを使用したりすることなく、Trezor Suiteを通じて直接ステーブルコインの利回りを得ることができます。

暗号資産の世界で「自分の資産は自分で守る」ための道具として知られるハードウェアウォレット。その大手Trezor(トレザー)が、ついに“利回り”の領域に踏み込んだ。

同社は、デスクトップ・モバイル向けアプリ「Trezor Suite」に、米ドル連動型ステーブルコインであるUSDTとUSDCを預け入れて利回りを得られる機能を追加した。連携先は、イーサリアム上に構築された分散型レンディングプロトコル「Morpho(モルフォ)」だ。Trezor公式サイトでも、USDCとUSDTをイーサリアム上で預け入れ、Trezor Suiteから離れることなく利回りを得られるとうたっている。

これまでDeFiといえば、外部ウォレットをつなぎ、見慣れないアプリを開き、英語だらけの画面で何度も署名する――そんな“玄人向け”の世界だった。セキュリティーの不安も大きく、ハードウェアウォレット利用者の中には、あえてDeFiには近づかない層も少なくなかった。

Trezorの新機能は、まさにそこを狙っている。

ユーザーは、外部ウォレットを接続したり、別のDeFiアプリを立ち上げたりする必要がない。Trezor Suiteの中から、あらかじめ選ばれたMorphoのボールトにUSDTやUSDCを預けられる。預け入れや引き出し、報酬の受け取りに関する操作は、Trezor本体上で署名する仕組みだ。取引内容も、人間が読める形で端末画面に表示されるという。

開始時点で用意されたのは、Steakhouse Financialが管理する「USDC Prime」と「USDT Prime」の2つのボールト。Trezor側は、利回りの原資はトークン配布キャンペーンではなく、Morpho上の借り入れ需要だと説明している。

要するに、「怪しい高利回りトークンを配る」のではなく、オンチェーン上の貸し借りから生じる利息をユーザーに還元する、という建て付けである。

Source: Trezor

「Ledgerに続け」ウォレット大手のDeFi内蔵競争

Trezorは、暗号資産ハードウェアウォレット市場でLedger(レジャー)に次ぐ有力プレーヤーとされる。今回の動きは、ウォレット事業者が単なる“保管箱”から、資産運用の入り口へと変わりつつあることを示している。

実際、Ledgerはすでに「Ledger Live」内でステーブルコイン利回り機能を提供しており、Kilnを通じてMorpho、Aave、Compoundなどのプロトコルと連携している。

暗号資産業界では長らく、「安全に保管するならハードウェアウォレット」「運用するならDeFi」というすみ分けがあった。だが、ユーザーにとってこの分断は面倒でもあった。保管と運用のたびにアプリを行き来し、署名画面に不安を感じる。そこにフィッシングサイトや悪質なブラウザー拡張機能のリスクも加わる。

Trezorは今回、その面倒な導線を自社アプリの中に取り込もうとしている。公式サイトでも「怪しいサイトや不審なブラウザー拡張機能を避けられる」と説明している。

年率2桁もあるが、もちろん“ノーリスク”ではない

ステーブルコイン利回りは、DeFiの中でも成長が目立つ分野だ。米ドルなどに連動する暗号資産をオンチェーンのレンディング市場に貸し出し、借り手が支払う利息を受け取る。暗号資産をただ寝かせておくよりも、一定の収益を得たいというユーザーには魅力的に映る。

CoinMarketCapのデータでは、USDCの利回りはプラットフォームや市場環境によって大きく変動し、一部では年率2桁の利回りを提示する例もあるとされる。

ただし、ここに落とし穴がある。

ステーブルコインと聞くと、通常の暗号資産より安全そうに見える。だが、利回り運用となれば話は別だ。スマートコントラクトの不具合、流動性の枯渇、担保資産の急変、ステーブルコイン発行体や取引相手への依存――リスクは少なくない。

Trezor自身も、DeFiレンディング固有のリスクを完全には排除できないと説明している。ウォレット側が守れるのは、あくまでユーザーがどのようにボールトとやり取りするか、という部分だ。プロトコルそのものにリスクがないわけではない。

ヴィタリック氏も警鐘「それは本当にDeFiなのか」

こうしたステーブルコイン利回り商品には、業界内からも慎重な声が出ている。

イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏は最近、多くの「USDC利回り」戦略について、中央集権的な発行体への依存が大きく、取引相手リスクへの対応も不十分だと指摘した。つまり、表面上はDeFiを名乗っていても、実態としては中央集権的なステーブルコインや特定の相手方に大きく依存しているのではないか、という問題提起である。

Source: Vitalik Buterin

同氏は、DeFiの理念により近いモデルとして、イーサを裏付けとするアルゴリズム型ステーブルコインや、現実資産を過剰担保とするステーブルコインを挙げている。

安全な金庫の中に、利回り商品が入り込む――。

Trezorの新機能は、暗号資産ユーザーにとって利便性を高める一方で、「保管」と「運用」の境界を曖昧にするものでもある。ハードウェアウォレットに入れているから安全、という単純な時代は終わりつつあるのかもしれない。

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