
テザーがロボットに“財布”を持たせる 独ニューラへ最大2240億円投資
ニューラは、テザーのウォレット技術とAI技術を自社のロボット基盤に組み込む計画だ。これにより、機械が自律的に決済を行い、端末上で計算処理を実行できるようにする狙いがある。

ステーブルコイン発行大手のテザーが、人工知能(AI)とロボットの世界へ、いよいよ本格的に踏み込む。
同社は、ドイツのテック企業ニューラ・ロボティクスに対する最大14億ドル(約2240億円)の資金調達ラウンドを主導する。評価額はおよそ70億ドル(約1兆1200億円)。暗号資産業界で巨大な収益を上げてきたテザーが、その資金をAI、ロボット、決済という新たな領域へ振り向ける格好だ。
今回のラウンドには、戦略投資家と金融投資家が混在する見通しだ。テザーは、同社の投資部門を通じて資金調達を主導する。この部門は、同社の利益や余剰準備金を原資に、AI、エネルギー、デジタルインフラなどの分野へ資本を投じている。
ニューラは今後、自社のロボットシステムにテザーの「ウォレット・デベロップメント・キット」を組み込む予定だ。これにより、機械があらかじめ定められた条件の範囲内で支払いを受け取り、取引を実行できるようにする狙いがある。
さらに両社は、テザーのAI実行基盤「キューバック(QVAC)」も導入する計画だ。これは、AIモデルをクラウドに頼らず、端末上で直接動かすことを目的に設計された仕組みである。
テザーのパオロ・アルドイーノ最高経営責任者(CEO)は、X上で今回の動きを示唆する投稿を行っている。
Tweet from Paolo Ardoino, CEO of Tether. Source: Tether on X.com
ニューラ・ロボティクスは2019年に設立され、ドイツ・メッツィンゲンに本社を置く。ヒューマノイドロボット、ロボットアーム、自律移動ロボットのほか、産業用・商業用のAI搭載システムを開発している。
同社が構築を進めているのが「ニューラバース」と呼ばれるエコシステムだ。ロボット、AIモデル、データ、サービスをつなぐソフトウェア基盤で、ロボット版のアプリ経済圏を狙うような構想ともいえる。
今回の投資に先立ち、2025年11月には、テザーが同社に10億ユーロ、ドル換算で約11億5000万ドル(約1840億円)を投じる可能性があると報じられていた。フィナンシャル・タイムズは当時、この取引によってニューラの評価額が93億ドルから116億ドル、すなわち約1兆4880億円から約1兆8560億円に達する可能性があると伝えていた。ただし、両社はいずれも協議の事実を確認していなかった。
今回の発表でも、テザーが実際にいくら拠出するのかは明らかにされていない。
テザー、AIと決済に広げる野心
ニューラへの投資は、テザーがステーブルコインの枠を超え、AI、決済、新興テクノロジーへと事業領域を広げる動きの一環だ。
同社は2026年第1四半期に10億4000万ドル(約1664億円)の純利益を計上したと発表している。余剰準備金は過去最高の82億3000万ドル(約1兆3168億円)に達した。主力事業であるUSDT以外の投資に回せる資金が積み上がっているわけだ。

Source: DefiLlama
テザーはここ数カ月、キューバックを軸にAI分野への攻勢を強めている。3月には、スマートフォンやエヌビディア製ではないチップなど、一般消費者向けハードウェア上でAIモデルを訓練・実行できるフレームワークを発表した。
その2カ月後には、医療向けAIモデル群「キューバック・メドサイ」を公表した。これもクラウドではなく、スマートフォンなどの端末上で直接動作することを想定している。
また、同社は自社技術スタックをめぐる開発者エコシステムの拡大にも動いている。5月には、キューバックやウォレット・デベロップメント・キットなどのオープンソースツールを使い、ローカルファーストのAIや決済アプリケーションを構築する開発者向けに助成プログラムを開始した。
アルドイーノCEOは2025年1月のインタビューで、AI搭載ヒューマノイドロボットが今後10年以内に一般的な存在になる可能性があると語っていた。計算能力と自動化の進歩が労働市場を作り変える、という見立てである。
テザーが発行するUSDTの時価総額は1870億ドル(約29兆9200億円)に上る。世界のステーブルコイン市場でおよそ59%のシェアを握っており、同社はデジタル資産業界でも屈指の巨大なバランスシートを持つ存在となっている。
暗号資産の世界で稼いだ資金が、次に向かう先はロボットであり、AIであり、そして「機械同士が支払いをする」未来だ。テザーは、USDTの発行体という立場から、AI時代の決済インフラ企業へと姿を変えようとしている。

