イーロン・マスク氏率いるスペースXの新規株式公開(IPO)をめぐり、市場が異様な熱気に包まれている。
報道によれば、スペースXのIPO「SPCX」には、すでに2500億ドル超(約40兆875億円)もの投資家需要が集まっている。スペースXが調達を目指す金額は750億ドル(約12兆263億円)。つまり、申込額はそのおよそ4倍に迫る勢いだ。もし実現すれば、史上最大のIPOとなる。会社の評価額は、実に1.8兆ドル(約288兆6300億円)にのぼる。
銀行関係者や投資家の間では、「需要は強い」との見方が広がる。関係者によれば、長期保有を前提とする機関投資家、いわゆるロングオンリー・ファンドも「相当な規模の注文」を入れているという。
価格決定は木曜日に予定されている。ただし、大口の機関投資家は手続きの終盤になって注文を出すことも多く、需要額はなお動く可能性がある。
IPO熱狂の陰で、ハイテク株が崩れる
このIPOは、市場が激しく揺れる中でやって来た。
米ハイテク株は大きく売られ、暗号資産市場からはこの1週間で1800億ドル超(約28兆8630億円)もの時価総額が吹き飛んだ。
市場関係者の一部は、この下落について「スペースXのIPOに参加する資金を捻出するため、投資家が他のリスク資産を売っている可能性がある」とみている。
暗号資産取引所ビットルーの調査部門、ビットルー・リサーチ・インスティテュートのリサーチ責任者、アンドリ・ファウザン・アジーマ氏は、コインテレグラフにこう語った。
「これはまさに、巨大IPOの前に起きる典型的な流動性逼迫が、リアルタイムで進行している状況だと見ています」
同氏は続ける。
「いま暗号資産やハイテク株が沈んでいるのは、偶然ではありません。スペースXの記録的なIPOによる、いわば直接的な“IPO税”です。価格決定は明日、取引開始は金曜日。1株135ドル、評価額1.8兆ドルという案件です」
1株135ドルは、円換算で約2万1647円となる。
アジーマ氏によれば、巨額の注文を伴う大幅な応募超過は、スペースXに対する熱狂を裏付けるものだ。だが、その熱狂が同時に、関連するリスク資産から流動性を吸い上げているという。
「とりわけ暗号資産が大きな打撃を受けています。暗号資産は個人投資家の比率が高く、成長株やハイテク株の物語にセンチメント面で強く結びついているからです」
ただし同氏は、これを本格的な弱気相場の始まりとは見ていない。あくまで「一時的な資金ローテーション」だという。

Tech stocks take a hit (five-day) ahead of SpaceX IPO. Source: Barchart
暗号資産取引所は“上場前先物”に殺到
スペースXの成長物語を支えているのは、衛星インターネット事業「スターリンク」だ。スターリンクはすでに、同社の売上と利益を支える重要な柱となっている。
さらにスペースXは、自社の人工知能関連事業について、将来的に23兆ドル(約3688兆500億円)の市場機会があるとも訴えている。
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このIPO熱にいち早く飛びついたのが、暗号資産取引所だ。
バイナンス、コインベース、クラーケン、バイビットは今月、スペースXの上場前価格に連動する「SPCX」のプレIPO永久先物を相次いで開始した。
バイナンスの現物・デリバティブ部門責任者であるシュンイェット・ジャン氏は、コインテレグラフに対し、バイナンスのプレIPO永久先物が開始直後から強い取引を集めていることについて、こう説明した。
「注目度の高い非公開企業に対し、このネイティブ商品を通じて、規制市場に近い形でエクスポージャーを得たいというユーザーの関心が高まっていることを示しています」
バイナンスでは、開始からわずか18日で累計取引高が21億ドル(約3367億円)に達した。参加者は130カ国以上に広がっている。
一方、分散型取引所ハイパーリキッドでも取引は活発だ。ハイパーダッシュによれば、過去24時間の取引高は7000万ドル(約112億円)。同取引所の合成型スペースX・プレIPO永久先物の現在価格は157ドル(約2万5175円)で、デリバティブ開始時の210ドル(約3万3674円)から下落している。
それでも需要は強い。ハイパーリキッドだけで未決済建玉、いわゆるオープンインタレストは1億1500万ドル超(約184億円)に達している。
現在の価格水準が示唆するスペースXの評価額は、1.97兆ドル(約315兆8895億円)だ。
巨大IPOに群がる資金。その熱気は、スペースXを押し上げる一方で、暗号資産とハイテク株の足元から、じわじわと流動性を奪っている。市場はいま、マスク氏の宇宙企業が放つ重力に、否応なく引き寄せられている。

