
ドル支配にほころび フィデリティが見た「金」と「ビットコイン」の不穏な共鳴
同投資会社によると、各国政府や中央銀行は、米国による支配を受けない代替決済システムとして、ビットコインや金といった資産にますます注目するようになっているという。

世界の金融秩序に、静かなきしみ音が走っている。
米資産運用大手フィデリティ傘下のフィデリティ・デジタル・アセットが公表したレポートで、こうした変化を指摘した。各国政府や中央銀行が、米国の管理下にあるドル決済網から距離を置き、金やビットコインといった「別の逃げ道」を探し始めているというのだ。

Gold overtakes US dollars in central bank reserves. Source: Kitco
象徴的なのがイランである。
ホルムズ海峡。世界の石油輸送の要衝であり、米国と中東情勢が緊張するたびに市場が神経をとがらせる海の関所だ。その通行にかかわる支払いについて、イラン政府がビットコインでの決済を認めたという。単なる暗号資産ニュースではない。これは、米ドルを中心とした国際金融システムを迂回する動きの一端といえる。
ビットコインは、国家が発行する通貨ではない。中央銀行もなく、発行主体もない。だからこそ、支持者たちは「中立的な準備資産」になり得ると主張してきた。米国の制裁や資産凍結を受けやすい国にとって、この特徴は単なる理想論ではない。生き残りのための道具になりつつある。

Source: Dennis Porter
もちろん、現実はきれいごとではない。
米当局は今年4月、イラン政府やイラン革命防衛隊に関連するとされる約3億4400万ドル、円換算で約548億円相当のステーブルコインを凍結した。ドルに連動するステーブルコインは便利だが、裏側には米国の金融インフラがある。つまり、使いやすい一方で、米国の手も届く。
それでも、石油輸送の現場ではテザーのUSDTのようなステーブルコインがなお使われているとされる。ドルそのものを避けたい。しかし、完全にドルから離れることもできない。そこに、現在の国際金融のねじれがある。
一方で、より古典的な逃避先である金も存在感を増している。
フィデリティによれば、中央銀行による金需要は依然として強い。金価格は1月に1オンスあたり約5600ドル、円換算で約89万2000円の過去最高値を付けた後、約20%下落した。それでも、中央銀行は金を買い続けている。金は誰かの負債ではない。どこかの政府が凍結できる電子残高でもない。戦争、制裁、政変、インフレ。そうした時代には、結局、古い資産が再び光を放つ。
注目すべきは、中央銀行の外貨準備において、金の比率が米ドル建て資産を上回ったとされる点だ。これは単なるポートフォリオ調整ではない。ドル一極支配への不信が、水面下で広がっていることを示す。
そして、その金の隣に、ビットコインが並び始めている。
フィデリティは、金の上昇に続いてビットコインも大きく上昇するとの見方を持っていた。ただし、そのシナリオはまだ十分には現実化していない。金は中央銀行が買える。だが、ビットコインを国家の準備資産として堂々と保有するには、まだ政治的にも制度的にもハードルが高い。価格変動も大きい。規制も定まらない。
それでも、ビットコインの意味は変わりつつある。
かつては投機家の玩具と見られていた。次に、インフレヘッジやデジタルゴールドと呼ばれた。そして今は、制裁を受ける国家や、ドル圏から距離を取りたい勢力にとって、地政学上の決済インフラとして浮上している。
米国にとっては厄介な話である。
ドルは単なる通貨ではない。米国の力そのものだ。国際送金、銀行決済、外貨準備、エネルギー取引。あらゆるところにドルが張り巡らされているからこそ、米国は制裁という武器を使える。だが、その武器を使えば使うほど、相手は迂回路を探す。金、人民元、ステーブルコイン、そしてビットコイン。ドル支配を逃れるための道具は、少しずつ増えている。
もちろん、ドル体制が明日崩れるわけではない。米国債市場の深さ、ドル決済網の利便性、米国経済の規模は今も圧倒的だ。だが、問題は「崩壊」ではない。「代替手段が育ち始めている」ことだ。
金は古い逃げ道である。ビットコインは新しい逃げ道である。
フィデリティのリポートが示しているのは、この2つが同じ文脈で語られ始めたという事実だ。制裁、資産凍結、地政学的分断。そうした時代の空気が、ドルの外側にある資産を押し上げている。
ドルの時代はまだ終わっていない。
しかし、ドルだけの時代は、すでに終わり始めているのかもしれない。

