
銀行の暗号資産ウォレットは破られるのか?欧州・中東・アジアが「量子コンピューター対策」を実証実験
量子コンピューターが現在の暗号技術を突破する――そんな「来るべき脅威」に備え、各国の銀行と金融当局が動き出した。暗号資産ウォレットとオンチェーン送金を守る、量子耐性インフラの共同実証実験が始まる。

量子コンピューターが、銀行や暗号資産を守る「暗号の壁」を破る日は来るのか。
その脅威を座して待つわけにはいかない――。欧州、中東、アジアの銀行と金融規制当局が、暗号資産ウォレットとオンチェーン送金を対象とした「量子耐性インフラ」の実証実験に乗り出した。
レスポンシブル・フィンテック・インスティテュート(RFI)と、暗号資産カストディー基盤を手掛けるセーフヘロンが24日、共同プロジェクトの開始を発表した。
米政府標準の「量子耐性署名」を導入
実証実験で使われるのは、マルチパーティ計算(MPC)と呼ばれる技術だ。
MPCは、暗号資産を動かすための秘密鍵を複数の参加者に分散させ、単独では取引を実行できないようにする仕組みである。今回のプロトコルは、米国立標準技術研究所(NIST)が公表した耐量子デジタル署名規格「ML-DSA-65」に対応する。
実験は、量子コンピューターへの耐性を備えたニア(NEAR)のテストネット上で行われる。
参加する金融規制当局は、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)、ブータンのゲレフ金融サービス局(GFSO)、マルタ金融サービス庁(MFSA)。金融機関としては、バイソン・バンクとDKバンクが名を連ねる。
銀行が送金、規制当局は「監視役」
銀行側は、各社が共通して利用できるアプリケーション環境で、暗号資産ウォレットの作成と送金をテストする。
一方、規制当局は第1段階ではオブザーバーとして実験を見守る。その後は、運営ルールや監督体制を検討するガバナンス部門にも加わる予定だ。ただし、具体的な参加範囲は機関ごとに異なる。
主催者は今後、研究内容やプロトコルの設計、実験結果をまとめたホワイトペーパーを公表する方針だ。さらに、基盤技術そのものをオープンソース化し、外部の専門家が検証できるようにするという。
「2030年」をにらみ、金融当局が動く
背景にあるのは、量子コンピューターが現在広く使われている公開鍵暗号を無力化する可能性だ。
暗号資産の取引だけではない。銀行送金やインターネット通信など、現代社会を支えるセキュリティーの多くが公開鍵暗号に依存している。十分な性能を持つ量子コンピューターが実用化されれば、その土台が揺らぎかねない。
香港金融管理局(HKMA)は、2030年までに香港の銀行業界全体を量子関連のセキュリティーリスクに対応できる状態にすることを目指している。
国際決済銀行(BIS)も2025年の報告書で、金融機関に対し、耐量子暗号への移行を早期に始めるよう呼びかけた。単に暗号アルゴリズムを交換すれば済む話ではなく、金融業界全体で足並みをそろえ、段階的に移行する必要があると指摘している。
量子コンピューターによる本格的な攻撃は、まだ現実になっていない。しかし、金融当局と銀行はすでに、その「前日」を見据えて動き始めている。
※原文にドル建ての金額は含まれていないため、円換算箇所はありません。

