
円と日本国債に異変 長期金利3%でもビットコインが動かない理由
世界の長期国債利回りが2008年の金融危機以来の高水準に上昇する中、日本の10年国債利回りは30年ぶりとなる3%に到達した。通貨価値の希薄化を巡る思惑が再燃しているが、ビットコインは7万8000ドル(約1250万円)前後で足踏みを続けている。

世界の債券市場が、にわかに騒がしくなっている。
主要国の長期国債が売られ続け、世界の長期金利は2008年の世界金融危機以来の高水準に達した。火曜日の取引でも売り圧力は収まっていない。
きっかけの一つとなったのが、スコット・ベッセント米財務長官の発言だ。
ベッセント氏は数日前、米財務省による国債買い戻しの1回あたりの上限を9月から40億ドル(約6410億円)に引き上げる方針を明らかにし、市場の注目を集めた。
もちろん、米財務省は金融政策を担う機関ではない。それでも市場の一部では、この措置を事実上の「イールドカーブ・コントロール(YCC)」に近いものと見る向きもある。
その結果、ビットコインや金などの投資家が長らく注目してきた「通貨価値の希薄化」というテーマが、再び脚光を浴び始めた。
特に異変が目立つのが日本だ。
日本の10年国債利回りは火曜日、1996年以来初めて3%まで急上昇した。30年国債利回りも過去最高となる4.18%を突破した。
米国でも10年国債利回りが数年ぶりの高水準まで上昇しており、執筆時点では4.78%となっている。

10-Year Japanese government bond. Source: TradingView
ここで日米両政府を悩ませているのが「円」の存在だ。
日本側は政策金利を引き上げれば、日本銀行の利払い負担などを通じて最終的に財政へ損失が波及する可能性がある。
その一方で、海外に投じている資金を日本へ戻そうとすれば、米国の財政を支えている大量の米国債を売却する必要が生じかねない。
つまり東京にとっては、「金利も簡単には上げられない」「米国債も簡単には売れない」という厄介な状況にある。
こうした問題について、暗号資産業界で以前から独自のシナリオを唱えてきたのが、ビットメックス共同創業者のアーサー・ヘイズ氏だ。
ヘイズ氏は数年前から、最終的に米連邦準備制度理事会(FRB)がFIMAレポ・ファシリティを利用することになるとの見方を示している。
FIMAは「Foreign and International Monetary Authorities」の略で、海外の中央銀行などが保有する米国債を担保に、FRBからドルを調達できる仕組みだ。
ヘイズ氏のシナリオでは、日本の財務省が保有する米国債を担保としてドルを借り、そのドルを売って円を買う。
こうすれば米国債を市場で大量に処分せずに円を買い支えることができ、国債市場を危機に陥らせることなく円高方向へ誘導できるというわけだ。
ただし、この仕組みを使えば新たなドル流動性が市場に供給されることになる。
だからこそヘイズ氏は、こうした事態に備えてビットコイン(BTC)や金、暗号資産を保有することを推奨している。
ベッセント財務長官も8月、将来的なFIMAファシリティの利用を示唆する発言をしている。
足元で世界の長期金利が一斉に上昇していることは、ヘイズ氏が描いてきたシナリオを市場が少しずつ織り込み始めた兆候なのかもしれない。
ブルッキングス研究所のシニアフェロー、ロビン・ブルックス氏もXへの投稿で、日本市場の異常さを指摘した。
「この2年間、日本では国債利回りが上がり続けているにもかかわらず、通貨が下落するという“リズ・トラス型”の債券市場危機が起きている。主要なG10諸国で、これほどの事態が起きたことはない。極めて不安定な状況だ」
「リズ・トラス型」とは、2022年に英国のトラス政権が大規模減税策を打ち出した際、英国債が急落すると同時にポンドも売られた市場混乱を指している。

10-year interest swap rate and trade-weighted JPY.
Source: Robin Brooks on X.com
では、こうした世界的な債券市場の混乱を前に、ビットコインはどう動いているのか。
意外にも、ほとんど動いていない。
火曜日の債券売りが進む中でも、ビットコインは7万8000ドル(約1250万円)付近で横ばいとなっている。朝方につけた7万9000ドル(約1266万円)近辺の高値から小幅に調整したものの、大きな値崩れには至っていない。
一方で、上値も重い。
コインテレグラフはこれまでに、現在の現物価格から8万6000ドル(約1379万円)までの間に厚いレジスタンスが形成されていると報じている。
好材料が続き、「通貨価値の希薄化」を見越した投資への関心が再び高まっているにもかかわらず、ビットコインの上昇に勢いがつかないのは、この売り圧力が一因とみられる。
8月の力強い回復を受け、市場の短期的な見方は依然として強弱入り交じっているものの、全体としては「慎重ながらも楽観的」といったところだ。
今後数週間では、7万6000ドル(約1218万円)から8万2000ドル(約1314万円)のレンジが最大の攻防ラインとなりそうだ。
暗号資産市場の外でも、リスク回避の動きが広がっている。
S&P500指数先物は火曜日に0.3%下落し、7660付近まで下げた。これは8月4日以来の低水準だ。
背景にあるのが、再び緊迫するイラン情勢だ。
米国とイランの戦闘が再燃し、攻撃やホルムズ海峡でのタンカーを巡る事件、ドナルド・トランプ米大統領の発言などを受けて原油価格が上昇している。
原油は2%超上昇し、WTI原油は1バレル=88ドル(約1万4100円)前後、北海ブレント原油は92ドル(約1万4700円)を上回った。
世界の国債市場では金利が急上昇し、中東では地政学リスクが再燃。そして各国政府は通貨と財政の難しいかじ取りを迫られている。
それでも今のところ、ビットコインは7万8000ドル近辺でじっと動かない。
世界の金融市場が大きく揺れ始める中、この「不気味な横ばい」が嵐の前の静けさなのか。それとも単なる上値の重さなのか。市場の視線は、再びビットコインに集まりつつある。

S&P 500 out-of-hours futures. Source: X.com

