
「ポケモンカードに3億ドル!?」ビットコイン暴落でも止まらない“オンチェーン・ガチャ”狂騒 暗号資産市場で異変が起きていた
ビットコインが急落し、現物ETFから約45億ドル(約6,660億円)が流出した2026年6月。それでもブロックチェーン上では、ポケモンカードを引く「オンチェーン・ガチャ」に約3億2,400万ドル(約480億円)が投じられ、過去最高を更新した。実物カードのNFT化が生み出した、新たな「RWA(現実資産)」市場の実態を追う。

2026年6月は、暗号資産市場にとって悪夢のような1カ月だった。
ビットコイン(BTC)は1カ月で20%以上下落し、約21カ月ぶりの安値を記録。さらに米国の現物ビットコインETFからは過去最大となる45億ドル(約6,660億円)が流出した。
ところが、その裏側では奇妙な現象が起きていた。
ブロックワークス(Blockworks)のデータによると、ブロックチェーン上でポケモンカードなどの「ガチャ」を引くために使われた金額は、6月だけで過去最高となる3億2,400万ドル(約480億円)を突破。前年同月は5,000万ドル(約74億円)にも届いていなかった。

Onchain gacha spending hit an all-time high in June 2026. Source: Blockworks.
暗号資産が暴落する中、人々はむしろデジタルトレーディングカードのパックを次々と開封していたのである。
その原動力は、一攫千金への期待なのか。それともコレクション欲なのか。
いま、市場関係者の間で密かに注目されているのが、「トレーディングカード×RWA(現実資産)」という新たな巨大市場だ。
ポケモンカードが「NFT」になる時代
日本人には馴染み深い「ガチャ」。
一定額を支払うと、何が出るか分からない仕組みだ。
トレーディングカード市場では、この仕組みは「ブースターパック」として昔から存在している。
開封するまで中身は分からない。
レアカードが出れば数十万円、時には数千万円もの価値になることもある。
一方、外れカードなら数十円程度。
つまり購入者はカードそのものではなく、「確率」を買っているわけだ。
世界のトレーディングカード市場は調査会社によって92億ドル(約1兆3,600億円)から151億ドル(約2兆2,300億円)規模と推計される巨大市場へと成長している。
中には数十万ドル(数千万円)で取引されるカードも珍しくない。

Some cards can fetch several hundred thousand dollars. Source: PriceCharting.
カードの価値を決める「鑑定」
高額カードには「本物か」「状態はどうか」を証明する仕組みが欠かせない。
そこで登場するのがPSA、ベケット、CGCといった鑑定会社だ。
カードの印刷位置、四隅、縁、表面の傷や汚れなどを細かく検査し、10点満点で評価する。
鑑定後は透明ケース(スラブ)に封入され、その評価が市場価格を大きく左右する。
同じカードでも評価が違えば価格は何倍にも変わる。
逆に未鑑定カードはリスクが高く、安く取引される傾向がある。

A Pokémon card sealed in a PSA slab. Source: eBay.
実物カードをNFT化
ここへブロックチェーン技術を持ち込んだのが、コレクター・クリプト(Collector Crypt)やコートヤード(Courtyard)といったプロジェクトだ。
仕組みは意外にシンプルだ。
運営会社が鑑定済みカードを保管庫(ボールト)に預け、そのカード1枚ごとにNFTを発行する。
ユーザーはNFTを購入し、開封すると実際のカードに裏付けられたNFTを受け取る。
そのNFTは、
- 保有し続ける
- マーケットプレイスで売却する
- プラットフォームへ買い戻してもらう
- 実物カードを取り寄せる
といった使い方ができる。
ただし、この仕組みは「本当にそのカードが保管されている」という信用の上に成り立っている。
保管会社の管理体制や鑑定の信頼性、プラットフォーム自体の存続など、利用者は一定のカストディリスクを負うことになる。
ポケモン人気が市場を爆発させた
この市場が急成長した背景には、ポケモン人気の再燃がある。
調査会社サーカナ(Circana)によると、ポケモンは2025年に米国で売上25億ドル(約3,700億円)を記録し、おもちゃブランド首位となった。
売上は前年から87%も増えた。
しかも購入しているのは子どもだけではない。
ミレニアル世代やZ世代の富裕層の中には、高級絵画よりも希少ポケモンカードへ投資する人も増えている。
鑑定会社PSAでは依頼が殺到し、2026年6月には約1,000万枚もの未処理カードを抱え、一部サービスの受付停止に追い込まれた。
そこへNFTによる即時売買という仕組みが加わったことで、取引のハードルは一気に下がった。

High-profile buyers like Logan Paul have helped push Pokémon cards into the spotlight. Source: Logan Paul.
コレクター・クリプトのマーケティング責任者ダコタ・キャンベル氏は、「従来のカード売買は時間もコストもかかった。トークン化によって瞬時に売買や所有権確認ができるようになった」と説明する。
同社は現在、約4,000万ドル(約59億円)相当のカードやコミックをトークン化しており、需要に対応するため毎週約200万ドル(約3億円)分を買い付けているという。
「ガチャ中毒」を加速させる仕組み
人気の理由は利便性だけではない。
各プラットフォームには「即時買い戻し(Instant Buyback)」機能がある。
開封してハズレカードだった場合、その場で約85%程度の価格で売却し、すぐ次のパックを開封できる。
つまり、
「引く」
↓
「ハズレ」
↓
「即売却」
↓
「もう一度引く」
というループが数秒で完成する。

The “instant buyback” option is available on nearly all TCG platforms. Source: Phygitals.
従来のカード市場では売却まで何週間も必要だった。
ブロックチェーンでは数秒だ。
この構造はゲーム業界で問題視される「ルートボックス(Loot Box)」にも似ており、一部の国ではギャンブル規制の対象として議論されている。

Sometimes users are driven by nothing more than the desire to “try their luck.” Source: X.
もっとも、キャンベル氏は「新興市場では投機は避けられない」と認めつつも、「最も熱心なのは『憧れの1枚』を探す本物のコレクターだ」と話す。
実際にカードを受け取る人も多い
とはいえ、利用者全員が投機目的というわけではない。
Duneのデータでは、コートヤードで発行されたNFTの5〜8%が毎週バーン(焼却)され、実物カードへの交換請求が行われている。

Users burn 5% to 8% of Courtyard’s issued NFTs each week for physical cards. Source: Dune.
コレクター・クリプトでも約30%の利用者が最終的にカードを受け取り、多くのユーザーは72時間の買い戻し期限を過ぎてもNFTを保有し続けているという。
過去30日間だけでも、634人のユーザーに対し総額329万ドル(約4億9,000万円)相当のカードが発送された。
ブロックチェーンは「カード市場」を変えるのか
今回のブームは、ブロックチェーンが新しい市場を生み出したというより、昔から存在するトレーディングカード市場を効率化した結果とも言える。
もちろん、ガチャ要素や投機性を懸念する声はある。
しかし、それはオンチェーン市場だけの問題ではなく、従来のトレーディングカード業界全体が抱える構造でもある。
6月の記録的なオンチェーン・ガチャ人気は、
- ポケモンカード市場の拡大
- RWA(現実資産)のトークン化技術の成熟
- ブロックチェーンによる高速売買
という3つの要素が重なった結果だった。
ただ、この熱狂が長続きするかはまだ分からない。
ガチャは熱狂するときも速いが、冷めるときもまた、一瞬だからだ。

