
イーサリアム口座を量子攻撃から守る費用は約11円?新技術「SPHINCS-」とは
イーサリアムが本格的な量子耐性の仕組みづくりを急ぐなか、SPHINCS-の提案は、その“つなぎ役”として、ポスト量子署名の検証にかかるコストを大幅に引き下げることを目指している。

イーサリアムの口座に、将来の量子コンピューター攻撃に備えた防御策を導入する費用は、わずか0.07ドル、日本円で約11円から始められるかもしれない――。
そう指摘したのは、イーサリアム財団の「コハク」プロジェクトを率いるニコラ・コンシニー氏だ。
コンシニー氏は土曜日、Xへの投稿で、イーサリアム利用者が将来の量子コンピューターリスクから自分の口座を守るための、より安価な手法を示した論文を共有した。提案されているのは、米国立標準技術研究所(NIST)が開発したポスト量子署名標準「スフィンクスプラス(SPHINCS+)」を、イーサリアム上でより効率よく動作するよう調整するというものだ。
この提案は「スフィンクス・マイナス(SPHINCS-)」と名付けられている。狙いは、プロトコル変更やプリコンパイルを必要とせず、オンチェーン上で署名を検証するコストを下げることにある。
コンシニー氏は、スフィンクス・マイナスについて、将来的なポスト量子署名システム「リーンスフィンクス(leanSPHINCS)」へ至るまでの“橋渡し”だと説明している。リーンスフィンクスは、署名の集約によって検証コストをさらに下げることを目指す仕組みだ。
この提案が見据えているのは、イーサリアムで使われる楕円曲線デジタル署名アルゴリズム(ECDSA)に対する、長期的な量子コンピューターの脅威である。専用のハードフォークが開発されるのを待たず、先に導入できる低コストな防衛策として注目される。

Signature scheme SPHINCs variant security degradation and onchain verification costs. Source: Ethresearch.ch
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量子コンピューターの影、暗号資産業界をざわつかせる
暗号資産業界では、量子コンピューターによる将来的な暗号解読リスクへの関心が高まっている。
4月には、ポスト量子技術のスタートアップであるプロジェクト・イレブンが、研究者ジャンカルロ・レッリ氏に賞金を授与した。レッリ氏は、量子コンピューターを使って15ビットの楕円曲線鍵を破ることに成功したという。
もちろん、ビットコインの鍵は256ビットであり、レッリ氏が破った15ビット鍵とは規模がまるで違う。それでも、同氏はショアのアルゴリズムの変種を用いて、公開鍵から対応する秘密鍵を導き出した。ショアのアルゴリズムは、理論上、ビットコインで使われている暗号方式にも脅威を及ぼし得る量子計算技術として知られる。
オンチェーン分析企業グラスノードによれば、将来の量子攻撃シナリオにおいて、約192万BTC、総供給量のほぼ10%が「構造的に安全ではない」とみなされるという。
さらに、鍵やアドレスの管理方法に起因して、別の約412万BTC、供給量の20.6%が「運用上安全ではない」と分類されている。

Source: Glassnode
一方で、残る69.8%、約1399万BTCについては、量子コンピューターの脅威にはさらされていないとグラスノードは推計している。この数字は、アーク・インベストが3月に示した「ビットコイン供給量の65%は安全」とする見積もりとも、おおむね一致している。
量子コンピューターが今すぐビットコインやイーサリアムを破壊する、という話ではない。だが、暗号資産の根幹である「署名」と「鍵」の安全性をどう守るのか。業界は、遠い未来の話として片付けるには少々重いテーマに、いよいよ向き合い始めている。

