
「AIは暗号資産にとってマイナス」 取引所フェメックスCEOが指摘
AI化を掲げる暗号資産取引所フェメックスのトップが、AIは業界全体にとって「差し引きマイナス」だと明言した。資金の流出、攻撃者の強化、セキュリティコストの高騰が、業界を中央集権化へと押しやるリスクがあるという。

AIは暗号資産の味方ではない。
そう言い切ったのは、暗号資産取引所フェメックスのフェデリコ・ヴァリオラCEOだ。同社は今年に入って「AI中心の変革」を打ち出したばかり。そのトップが、AIは暗号資産にとって「差し引きでマイナス」だと語ったのである。
ヴァリオラ氏が口を開いたのは、コインテレグラフの番組「チェーン・リアクション」でのこと。AIは業界から資金を吸い上げる一方で、攻撃者に力を与え、小規模チームのサイバーセキュリティコストを押し上げている。その結果、暗号資産はより中央集権的な方向へ追いやられかねない、というのが同氏の見立てだ。
「暗号資産の世界で、AIに強気になるのは難しい」
ヴァリオラ氏はそう切り出した。
「一方では、流動性が大幅にAI業界へと流れてしまった。もう一方では、AIがプロトコルを悪用する多くの悪意ある者たちに力を与えている」
さらに同氏はこう続ける。
「AIが暗号資産という業界を特に利する世界は想像しにくい。実際、目にする対策の多くは、分散化ではなくむしろ中央集権化を促すものだからだ」
AIが暗号資産業界に与える影響について、懐疑的な視点を示したかたちだ。フェメックスは2月、AIトランスフォーメーションを発表。製品開発から社内業務に至るまでAIを組み込む計画を明らかにしていた。ただし、今回のヴァリオラ氏の発言はあくまで暗号資産業界全体に向けたものである。
AIで跳ね上がるセキュリティのリスク
ヴァリオラ氏の警鐘は、絵空事ではない。最近の暗号資産ハッキング事件には、AIの影がちらつくのだ。
7月には、コールドカードのハードウェアウォレットの欠陥を突かれ、5200を超えるアドレスから約1億1600万ドル(約184億円)相当のビットコインが流出した。この欠陥は、AIの悪用によって発見されたとの見方が広く出回っている。
コールドカードを手がけるコインカイトのロドルフォ・ノヴァクCEOは当時、開発者たちに向けて警告を発した。AIを使ったコードレビューは、いまや業界きっての熟練専門家をも凌ぐスピードでバグを見つけ出せる。それが「冷徹な現実」だ、と。
ヴァリオラ氏もこう語る。
「AIは、ソーシャルエンジニアリングであれ、脆弱性の発見であれ、プロトコルを悪用する多くの悪意ある者たちに力を与えてきた」
同氏によれば、プロトコル開発に携わる小規模チームは今後、巨額のサイバーセキュリティ予算なしには立ち行かなくなるという。
脅威はそれだけではない。AIの台頭によって、セルフカストディ(自己管理)や分散型金融(DeFi)の魅力そのものが薄れかねない、とヴァリオラ氏は懸念する。
「AIが浸透するにつれて、デバイスのハッキングであれ、ソーシャルエンジニアリングであれ、攻撃者を強化するあらゆる手口が広がっていく。そうなれば、個人ユーザーにとってDeFiの魅力は大きく損なわれる。以前ほど気にしなくてよかったことを、山ほど心配しなければならなくなるからだ」
もっとも、AIには守りの力もある。セキュリティの専門家たちはそう強調する。サーティックのシニア・ブロックチェーン調査員、ナタリー・ニューソン氏は4月、コインテレグラフの取材に対し、AIは攻撃を巧妙化させていると警告しつつも、「最大の防御策のひとつにもなり得る」と語っていた。
AIエージェントには「実用的な価値」
AIの影響を総じて厳しく評価するヴァリオラ氏だが、すべてを否定しているわけではない。AIエージェントについては、投資家のポートフォリオ構築やより良い取引判断の手助けといった面で、実際的なメリットがあると認める。
ただし、AIエージェントが人間の取引判断に完全に取って代わるとは考えていない。
「結局のところ、最終的な判断を下すのはユーザー自身だ。だから、エージェントが『取引を実行する』という行為そのものを置き換えることはないと思う」

