イーサリアム界隈に、またひとつ不穏な影が差した。
主役は、ネットワーク黎明期からETHを抱え続けてきた「古参クジラ」である。この大口投資家が過去1週間で、計6万4442ETHを売却した。金額にして1億3600万ドル、日本円で約217億円。平均売却価格は1ETHあたり2041ドル、約32万6000円だった。
ETH価格が心理的節目の2000ドル、約31万9000円を割り込むなかでの大量売却。市場ではすぐさま、こんな声が広がった。
「ついにイーサリアムの古参勢が逃げ出したのではないか」
だが、オンチェーンデータを丹念に見ると、話はそこまで単純ではない。
売ったのは古参クジラ、しかし“一斉逃亡”ではない
ブロックチェーン分析サービスLookonchainによると、この古参投資家はまず5万5000ETH、約1億1225万ドル、約179億円相当を売却。さらに9442ETH、約2400万ドル、約38億円相当も手放した。
合計すれば約217億円。個人か組織かは不明ながら、暗号資産市場では無視できない規模である。

Selling by an old ETH wallet. Source: Lookonchain
ただし、この動きだけをもって「イーサリアム古参勢が総崩れ」と見るのは早計だ。
イーサリアムの供給を保有期間別に見る「HODL Waves」では、長期保有層のETHはむしろ大きく動いていない。過去1年で見ると、古くから保有している投資家層の供給比率はおおむね上昇している。
足元で目立つのは、むしろ短期勢の離脱だ。
3カ月〜6カ月保有層の供給比率は、5月19日の13.5%から9%へ低下。1週間〜1カ月保有層も、同じ期間に4.76%から2.6%へ落ち込んだ。つまり、売っている中心は「昔からの信奉者」というより、比較的最近入ってきた投資家とみられる。
一方、5年〜7年保有層の供給比率は8.59%から9%へ小幅に上昇した。古参勢が一斉に船を降りている、というより、むしろまだ甲板に残っている者が多いということになる。

Ethereum: HODL Waves. Source: Glassnode
2022年の“底値局面”ほどの異変はない
さらに重要なのは、5年〜7年前に最後に動いたETHの供給量だ。
この指標はここ数週間でやや上昇しているものの、ETH価格が1000ドル、約16万円を下回って底を打った2022年当時の水準には遠く及ばない。

ETH: Total supply last active 5 years to 7 years. Source: Glassnode
つまり、今回の古参クジラの売却は目立つ。確かに目立つ。だが、市場全体を揺るがす「古参勢の大量脱出」とまでは言えない。
一部の著名プレーヤーがETHの一部、あるいは全保有分を売却したと明かしているのは事実である。しかし、オンチェーン上では、それを広範なトレンドとして裏付ける材料は乏しい。
それでもETHに残る「1500ドル割れ」の悪夢
問題は、古参勢が逃げているかどうかだけではない。
ETH価格そのものは、明らかに弱い。
木曜日以降、ETHは2000ドル、約31万9000円前後で神経質な値動きを続けている。執筆時点では1980ドル、約31万6000円。過去24時間で2%安、週間では6.5%安となった。
アナリストのアレックス・マーゼル氏はXでこう指摘した。
「イーサリアムにとって良い形には見えない」
同氏は、ETHが次の重要な支持帯へ近づくなかで、相場の勢いはなお弱気派に傾いているとみる。

ETH/USD daily chart. Source: X/Marzell
市場が注視するのは1800ドル、約28万7000円近辺だ。この水準を守れなければ、次に意識されるのは1500ドル、約24万円台である。
“蓄積局面”か、それとも崩落前夜か
別のアナリスト、Merlijn The Trader氏は、ETHの値動きが「ワイコフの蓄積局面」に沿っていると分析する。
同氏によれば、現在のETHは売りのクライマックスを通過した後の「フェーズB」の保ち合いにあり、次の「フェーズC」で1500ドルを下回る水準まで沈み、そこで底を打つ可能性があるという。

ETH/USD three-day chart. Source: Merlijn The Trader
Echo Analysisも弱気だ。ETHの日足チャートではベアフラッグが崩れ、1500ドル近辺の支持帯に向かう展開を示唆しているとした。

ETH/USD daily chart. Source: Echo Analysis
取引所へのETH供給は増えている。ETF需要は鈍っている。買い手の勢いは細り、売り手の圧力は残る。
結局のところ、今回の古参クジラの売却は「イーサリアムOG総逃亡」の証拠ではない。だが、市場心理に冷水を浴びせるには十分だった。
古参勢はまだ逃げ切っていない。
しかし、短期勢はすでに出口へ向かっている。
そしてETHは今、2000ドルの扉を背に、1500ドルの床を見下ろしている。
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