
AIハッカーで暗号資産が壊滅するはずが…DeFi「ハック地獄」はなぜ起きなかった?
AIによってDeFiが次々と破られる「ハックポカリプス」がやって来る――。そんな業界の恐怖は、ひとまず杞憂に終わったようだ。被害件数は過去最多となる一方、1件あたりの被害額は急減。しかし、その陰では北朝鮮系ハッカーが巨額の暗号資産を奪い続けている。

人工知能(AI)が分散型金融(DeFi)の弱点を次々と見つけ出し、壊滅的なハッキングを引き起こす――。
暗号資産業界で「ハック」と「アポカリプス(終末)」を掛け合わせ、恐れられてきた“ハックポカリプス”。だが、ドラゴンフライのマネージングパートナー、ハシーブ・クレシ氏によれば、そんな最悪の未来は、少なくとも今のところ現実にはなっていない。
被害件数は過去最多、それでも1件あたりの被害は4分の1以下
確かに、暗号資産を狙った攻撃件数そのものは過去最多に膨れ上がっている。
ところが、今年発生したハッキングの被害額の中央値は、50万ドル(約8110万円)を下回った。2025年には200万ドル(約3億2450万円)を超えていたため、わずか1年で4分の1以下に縮小した計算になる。
クレシ氏は、この数字について、AIを使う攻撃者が狙っているのは「小規模なプロトコルや、事実上放置されたソフトウェア」である可能性を示していると指摘する。
一方、資金が大量に集まる大手DeFiプロトコルは、AIによる攻撃を想定して防御態勢を強化してきた。つまり、AIハッカーが無双しているというより、守りの弱い“小物”ばかりが狙われているというわけだ。
巨額事件を除けば、2026年の被害は前年より減少
2025年2月に起きた暗号資産取引所バイビットへの攻撃や、今年4月のドリフト・プロトコル、ケルプDAOに対するエクスプロイトなど、突出して被害額が大きかった月を除外すると、2026年の月間被害額は2025年を下回っているという。
クレシ氏は、AIによってDeFi全体が一斉に崩壊するという予測について、現時点では“誤報”に近かったとの見方を示している。
しかし、すべての専門家が安心しているわけではない。
ブロックチェーンセキュリティー企業オープンゼッペリンの創業者、マヌエル・アラオス氏は、AIコーディングエージェントがスマートコントラクトの脆弱性を発見する能力を急速に高めているとして、「DeFiはすべて安全ではない」と警告している。
4月だけで1045億円消失、「安心」にはほど遠い現実
DeFiだけでなく、中央集権型取引所やウォレットの乗っ取り、フィッシング詐欺まで含めて見ると、業界全体の状況は決して楽観できない。
デフィラマによると、2026年4月には暗号資産関連のハッキング被害が急増し、約6億4400万ドル(約1045億円)が失われた。
これは、バイビットへの攻撃が発生した2025年2月以来、1年以上ぶりの高水準だった。
バイビット事件では、単独の攻撃で約14億ドル(約2272億円)が流出。2025年2月全体の被害額は約14億6000万ドル(約2369億円)に達していた。

Source: Haseeb
上半期の被害は47%減、それでも「安全になった」は大間違い
ブロックチェーンセキュリティー企業サーティックの集計によると、2026年上半期に暗号資産ハッキングで失われた金額は、前年同期比46.8%減の13億2000万ドル(約2142億円)だった。
数字だけを見れば、大幅な改善に映る。
だがサーティックは、被害総額が減ったからといって、Web3業界が安全になったとは限らないと警鐘を鳴らしている。
そもそも前年の数字は、暗号資産史上最大の被害となった約14億ドルのバイビット事件によって、大きく押し上げられていたからだ。
実際、サーティックの一次資料では、バイビット事件を除いて比較した場合、2026年上半期の被害額は前年同期より約28%多いとされている。見かけ上の「47%減」に安心している場合ではない。

朝鮮系ハッカーが暗躍、わずか2件で被害の7割超
さらに深刻なのが、北朝鮮の国家支援を受けたとされるハッカー集団の存在だ。
2026年第2四半期に発生した被害額の70%以上は、ケルプDAOとドリフト・プロトコルへの攻撃によるものだった。これらの事件には、北朝鮮系ハッカーが深く関与したとみられている。
TRMラボの推計によると、北朝鮮に関連する攻撃者は2026年上半期だけで約6億4300万ドル(約1043億円)を奪い、世界全体の暗号資産窃盗被害の約3分の2を占めた。
また、北朝鮮系ハッカーが2017年以降に盗んだ暗号資産は、累計60億ドル(約9735億円)を超えると推定されている。
AIによる「ハックポカリプス」は、ひとまず不発に終わったのかもしれない。
だが、攻撃件数は過去最多。北朝鮮系ハッカーは、たった数件の攻撃で1000億円規模の資金を奪っている。
“世界の終わり”は来なかった。しかし、暗号資産業界の金庫には、今も無数の穴が開いたままなのである。

