
ビットコインを守るエンジニアたちが悲鳴 ―― 名だたる暗号資産企業が最先端AIに"特別待遇"を求めたワケ
クラーケンやレジャーなど暗号資産大手が結束し、AI開発大手に緊急要請。攻撃側だけが"最強のAI"を使いこなす現状に、業界が危機感をあらわにした。

「攻撃する側だけが最強の武器を握り、守る側は"型落ち"で戦えというのか」――そんな悲痛な訴えが、暗号資産業界から飛び出した。
ビットコイン(BTC)をはじめとするオープンソースの金融インフラを守るエンジニアたちを支援する米シンクタンク「ビットコイン・ポリシー・インスティテュート(BPI)」は月曜、最先端AI(フロンティアAI)開発各社に宛てた"公開書簡"を公表した。要は、こういうことだ。
「ビットコインのコア開発者をはじめとする"守る側"のエンジニアに、御社が持つ最も高性能なAIモデルへの早期アクセス権を与えてほしい」
"守る側"は型落ちAIで我慢を強いられている
書簡によれば、ビットコイン・コア開発者を含む多くの"デジタル資産の防衛者"たちは、AI研究所が用意するサイバーセキュリティ向けの特別プログラムへのアクセス権を持っていない。それどころか、一般公開されている最先端AIシステムには安全対策(ガードレール)がかけられており、結果として性能で劣る、いわゆる「オープンウェイト」モデルで我慢せざるを得ない状況に置かれているという。
そこで署名者らは、フロンティアAI各社にこう要求した。
「オープンソースの金融インフラを守る、正当な資格を持つ防衛者向けに、常設の"信頼済みアクセス"プログラムを新設、あるいは拡充してほしい」
書簡は、オープンソースソフトウェアが重要なデジタル・金融インフラを支えていると強調する。ビットコインだけでもその守る価値は1兆ドル(約159兆円)を優に超え、オープンソース基盤にひとたび脆弱性が見つかれば、無数の人々の"虎の子"の貯蓄が危険にさらされかねないと警鐘を鳴らした。
この公開書簡には、アフリカン・ビットコイン・インスティテュート、アンカレッジ・デジタル、ビットゴー、ビットワイズ、ブロックストリーム、ブル・ビットコイン、マラ(MARA)、クラーケン、レジャー、トレザーなど、名だたる暗号資産企業・団体が名を連ねている。
攻撃側と防御側、AIをめぐる"軍拡競争"
書簡はさらに、フロンティアAIがセキュリティ研究やサイバー攻防戦の"経済構造"そのものを塗り替えつつあると指摘する。最先端のAIモデルは膨大なコードベースを瞬時に解析し、潜在的な弱点を洗い出し、複雑な技術作業を大幅に加速させる力を持つ。それは"守る側"にとっても"攻める側"にとっても、等しく強力な武器になり得るというわけだ。
書簡は、フロンティアAIが「これまでに開発された中で最も強力な防御技術の一つ」になり得ると訴える一方、こう釘を刺すことも忘れない。
「専用のアクセスプログラムがなければ、防御する側はインフラを狙う進化し続ける脅威に太刀打ちできなくなるかもしれない」
BPIによれば、オープンソースのメンテナンス担当者たちから、高度なAI能力を駆使して執拗な攻撃を仕掛けてくる"手練れ"の攻撃者――その中には外国の敵対勢力とみられる者も含まれるという――に関する報告が、複数の独立したルートから寄せられているという。

Total crypto hacks by monthly sum, all-time chart. Source: DefiLlama
4月だけで約1010億円が消えた
実際、暗号資産業界を狙ったハッキング被害は2026年4月に急増した。分析会社ディーファイラマ(DefiLlama)のデータによれば、この月だけで6億3400万ドル(約1010億円)以上が悪意ある攻撃者の手に渡った。これは、2025年2月の月間被害額を約14億ドル(約2230億円)にまで押し上げた「バイビット(Bybit)」ハッキング事件以来、最悪の月間被害額だという。
AIによる"脆弱性発見"が業界に走らせた戦慄
AIを使った脆弱性発見技術の進化は、暗号資産セキュリティ業界全体に懸念を広げている。「クロード・オーパス4.8(Claude Opus 4.8)」や「チャットGPT5.5(ChatGPT 5.5)」といった新型モデルの登場も、この流れに拍車をかけた一因とされる。
バグ報奨金プラットフォーム「イミュニファイ(Immunefi)」のミッチェル・アマドール(Mitchell Amador)最高経営責任者(CEO)は、こうした状況を暗号資産業界における「脆弱性の黙示録(vulnerability apocalypse)」と形容した。
「攻撃する側だけがAIという最強の武器を手にする」――そんな不均衡がこのまま放置されれば、次に狙われるのは誰の資産なのか。ビットコイン開発者たちの悲鳴は、AI各社にどこまで届くのか、注目される。

