トランプ米大統領の名前を冠したミームコインが、ただの投機商品から「会員権」のような顔を見せ始めている。
トランプ氏の長年のビジネスパートナー、ビル・ザンカー氏が、トランプコインの上位保有者向けに「トランプコインクラブ」を立ち上げるというのだ。最初の特典は、来月開かれるFIFAワールドカップ決勝のVIP観戦ツアーだ。対象はトークン保有上位19人。3日間の特別な体験として、ニューヨークのセントレジス宿泊、夕食会、ナイトクラブへのVIPアクセス、ニュージャージー州メットライフ・スタジアムのスイート席観戦が用意されるという。
ザンカー氏は、今後も同様のイベントを「少なくとも四半期に1回」開く考えだ。対象は引き続き、トランプコインの大口保有者になる。イベントは「大きな国際イベント」を中心に組まれるという。
つまり、トランプコインは価格の上下を狙うだけの商品ではなく、「持っている人だけが入れるクラブ」の入場券にもなりつつある。
この仕組みは、暗号資産市場では珍しくない。NFTでも、保有者限定イベントや会員制コミュニティはよく使われてきた。だが今回は対象が現職の米大統領に関係するミームコインだ。話は一気に政治色を帯びる。
すでにトランプ氏は、ミームコイン保有者向けのイベントに顔を出してきた。マー・ア・ラゴで開かれた会合では、外国人保有者も出席していたと報じられている。米議会では、誰が参加し、何が話されたのかを開示すべきだとの批判も出ている。
今回のワールドカップ決勝ツアーでは、トランプ氏本人と保有者が面会する予定はないとされる。ただし、参加者はシークレットサービスの審査を受ける。ザンカー氏は「サプライズはあるかも」と含みを持たせている。
価格面では、熱狂はすでに冷めている。
トランプ・ミームコインは、昨年1月のピークから97%超下落。大統領就任前夜には完全希薄化後評価額が750億ドル、1ドル=160円換算で約12兆円近くに達したが、現在は約20億ドル、約3200億円規模まで縮小した。
それでもザンカー氏は強気だ。トランプ「地球上で最大のブランドだ」と言い切る。価格が下がっても、トランプという名前にはまだ集客力がある、ということらしい。
この構図は、日本でも他人事ではない。
国内でも「サナエトークン」と呼ばれた一連の騒動があった。政治家の名前や人気、支持者心理に便乗する形で、非公式のトークンが市場に出回った。本人や関係団体が発行したものではなくても、名前がつくだけで話題になる。SNSで拡散され、価格が動き、あとから「何だったのか」と騒ぎになる。
トランプコインは、そこから一歩先へ進んでいる。
単に政治家の名前を借りるだけではない。大口保有者にイベント参加権を与え、クラブ化し、継続的な特典を設計する。ミームコインを、政治ブランドのファンクラブに近づけている。
ただし、投資商品として見れば危うさは残る。
トークンを持っても、株式のような議決権や配当があるわけではない。企業価値に直接連動するわけでもない。価格を支えるのは、ブランド、話題性、特典、そして保有者の期待だ。
ワールドカップ決勝の一般席でも、安い席が8000ドル、約128万円を下回らないとされる。一方で、過去には3000ドル、約48万円相当のトランプ・コイン保有でマー・ア・ラゴのイベント参加権を得られた可能性があったという。
ここに、ミームコインの新しい売り方がある。
値上がり益だけではなく、「アクセス」を売る。
政治家本人に近い空気を売る。
大口保有者であることの特別感を売る。
トランプコインは、暗号資産というより、政治ブランドを使った会員制ビジネスに近づいている。
日本の「サナエトークン」騒動が見せたのは、政治家の名前が暗号資産市場で勝手に使われるリスクだった。トランプコインが見せているのは、その名前を公式側がビジネスとして運用した場合に何が起きるかだ。
暗号資産市場では、政治家の名前すら商品になる。
そして、商品になった名前は、今度はクラブの扉を開ける鍵になる。

