韓国の暗号資産市場で、主役が変わり始めている。
これまで韓国市場を動かしてきたのは、個人投資家の熱狂だった。アップビットやビッサムといった国内取引所を通じ、アルトコインの売買が活発に行われ、「キムチプレミアム」と呼ばれる韓国特有の価格上乗せもたびたび話題になった。
だが、足元で目立つのは銀行、証券会社、インターネット大手の動きだ。暗号資産を周辺市場として見るのではなく、自社の金融サービスに取り込もうとしている。
象徴的なのが、韓国大手銀行ハナ銀行によるドゥナム出資だ。ドゥナムは韓国最大の暗号資産取引所アップビットの運営会社だ。ハナ銀行は、カカオ系企業からドゥナム株6.55%を約1兆30億ウォン、約6億7250万ドルで取得する。1ドル=160円換算で約1076億円だ。取引が完了すれば、ハナ銀行はドゥナムの第4位株主になる。韓国銀行による暗号資産企業への単独投資としては最大級だ。
ハナ金融グループは、今回の出資を「デジタル資産を基盤にした金融革新を加速するための戦略的判断」と位置づけている。ハナ銀行とドゥナムは、ブロックチェーンを使った海外送金サービスの開発でも協力しており、すでに技術検証を終えたという。
もう一つの大きな動きが、韓国ネット大手ネイバーだ。
ネイバーのフィンテック子会社ネイバー・ファイナンシャルは、ドゥナムを株式交換で買収することで合意している。取引額は15兆1300億ウォン、約102億7000万ドル。1ドル=160円換算で約1兆6430億円だ。韓国最大級のインターネット企業が、同国最大の暗号資産取引所を取り込む構図になる。
アップビットは韓国暗号資産市場で圧倒的な存在感を持つ。報道では、韓国市場の約7割のシェアを持つとの見方もある。ネイバーにとっては、検索、決済、EC、コンテンツに続く新たな成長領域として、暗号資産とステーブルコインを取り込む狙いがある。
つまり、韓国では暗号資産取引所が単独で成長する時代から、銀行やネット金融の中に組み込まれる時代へ移りつつある。
背景には、規制整備もある。
韓国では2024年に「仮想資産利用者保護法」が施行された。さらに政府は、暗号資産の越境取引にも規制を広げる方針だ。2025年後半から、越境取引を扱う事業者に事前登録を義務づけ、韓国銀行への月次報告も求める計画がある。背景には、2020年以降に外為関連犯罪が11兆ウォン規模に達し、その8割超に暗号資産が関係していたとの問題意識がある。
ステーブルコインも焦点だ。
韓国銀行の柳相大副総裁は、ウォン建てステーブルコインについて、まずは厳格に規制された銀行から段階的に導入するのが望ましいとの考えを示している。ステーブルコインは決済や送金に使える一方、金融政策や決済システムに影響を与える可能性がある。そのため、非銀行企業にいきなり広げるのではなく、銀行主導で慎重に始めるべきだという立場だ。
この流れは、銀行にとって防衛でもあり、攻めでもある。
ステーブルコインや暗号資産決済が広がれば、預金、送金、決済という銀行の中核業務に影響が出る。ならば外から奪われる前に、自分たちが発行・管理・接続する側に回る。ハナ銀行のドゥナム出資や、銀行主導のウォン建てステーブルコイン構想には、そうした意図がある。
一方で、リスクも残る。
韓国ではビッサムが顧客に誤って巨額のビットコインを配布したとされる問題を受け、金融監督当局が暗号資産システムの脆弱性に警戒を強めている。金融監督院は、暗号資産を伝統金融の中に取り込むには、電子システムや利用者保護の規制をさらに強化する必要があると指摘している。
伝統金融が入れば、市場は大きくなる。だが、求められる管理水準も上がる。
韓国暗号資産市場は、個人投資家の短期売買で知られてきた。そこに、銀行、ネット大手、規制当局が本格的に入ってきた。アップビットはネイバーと結びつき、ハナ銀行はドゥナムの大株主になる。中央銀行はウォン建てステーブルコインを銀行から始めるべきだと見る。
暗号資産市場は、韓国でも「取引所の中の投機市場」から「金融インフラの一部」へ移りつつある。
次の焦点は、誰が入口を握るかだ。
取引所か。銀行か。ネット金融か。
それとも、規制当局が設計する新しい枠組みか。
韓国では、その主導権争いがすでに始まっている。

