「ビットコインは売らない」。そう語ってきたはずの“ビットコイン伝道師”マイケル・セイラー氏率いるストラテジーが、ついに保有するビットコインに手を付けた。
同社は米証券取引委員会(SEC)への提出書類で、5月26日から31日にかけて32BTCを売却したと明らかにした。売却額は250万ドル、日本円で約4億円。平均売却価格は1BTCあたり7万7135ドル、約1230万円だった。
これにより、同社の保有ビットコインは84万3738BTCから84万3706BTCへと減少した。数字だけを見れば、巨大な保有量の中のわずかな売却にすぎない。だが、市場がざわついたのはその「額」ではない。「あのストラテジーが売った」という事実そのものだった。
売却資金の使途は、優先株の分配金に充てるためだという。つまり、これまで積み上げてきたビットコイン財務戦略が、株主還元の原資確保という現実の前で、初めて“換金”を迫られた格好だ。

Source: SEC
ストラテジーがビットコインを売却したのは、2022年の節税目的の取引以来となる。当時は704BTCを売却し、2日後に810BTCを買い戻していた。今回の売却はそれとは性格が異なる。配当原資に充てるための売却であり、同社の資金調達モデルをめぐる懸念に火をつけた。

Bitcoin (BTC) price chart over the past 24 hours. Source: CoinGecko
実際、市場では以前から、同社の優先株を活用した資金調達手法に対して「配当負担が膨らめば、いずれビットコインを売るのではないか」との見方がくすぶっていた。今回の32BTC売却は、その疑念に現実味を与えた。
開示後、ビットコイン価格は7万2000ドルを割り込み、一時7万2138ドル前後まで下落した。マーケットウォッチも、売却規模は小さいものの「行為そのものが重要だ」と指摘している。
同社は同じ週に、クラスA普通株80万1994株も売却し、1億2830万ドル、約205億円を調達した。一方で、優先株による新たな資金調達は行われなかった。

Source: Polymarket
不可解なのは、セイラー氏の沈黙だ。新たにビットコインを買った際には即座にXで発信する同氏だが、今回の売却については、記事執筆時点で何も語っていない。週末には、同社の過去のビットコイン購入履歴を示すチャートとともに「Working Better」と投稿していた。市場では「買い増しの示唆か」と受け止められていただけに、ふたを開ければ売却だったという展開に、失望と疑念が広がった。
ストラテジーのフォン・リーCEOは先週、将来的な売却の可能性を認めていた。
「いずれどこかの時点でビットコインを売却する可能性は高い。ただし、純ベースではビットコイン保有を増やし、より重要なのは1株あたりのビットコイン保有量を増やすことだ」
その言葉は、早くも現実となった。
売りに回ったのはストラテジーだけではない。ナスダック上場のプロキャップ・ファイナンシャルも、普通株200万株を純資産価値から約50%割り引いた価格で買い戻すため、約52BTCを売却した。アンソニー・ポンプリアーノ氏は、これにより残存株主の1株あたりビットコインエクスポージャーは高まったと説明している。

Source: Anthony Pompliano
企業のビットコイン購入にも陰りが見える。直近1週間の企業による取得量は合計144BTC。前週の603BTCから大きく減った。
「企業が買うから上がる」――そんな相場の物語は、ここへ来て揺らぎ始めている。ストラテジーの売却は、わずか32BTCにすぎない。だが、セイラー氏が築いてきた“不売神話”に入った最初のヒビとして、市場はその意味を重く受け止めている。

