米紙ニューヨーク・タイムズは水曜日、ビットコインの創設者サトシ・ナカモトの正体として、Hashcashを開発した英国の暗号学者アダム・バック氏が最も有力であるとする調査記事を公開した。
これに対しバック氏はNYTの主張を否定し、コインテレグラフに対し、過去にも同様の指摘を退けてきたとしてXでの自身の投稿を参照するよう記者に伝えた。
バック氏は投稿の中で、自身がサトシではないと改めて強調し、「暗号技術、オンラインプライバシー、電子マネーの社会的意義に早期から強い関心を持っていた。そのため1992年頃以降、ecashやプライバシー技術に関する応用研究に取り組み、cypherpunksメーリングリストでの活動を通じてHashcashやその他のアイデアに至った」と説明した。
今回の報道は、セラノス社の不正を暴いたことで知られる調査報道記者ジョン・キャリールー氏によるものだ。同氏は記事の中で、サトシ・ナカモトのビットコイン論文に引用されているバック氏が、長年にわたり電子マネーについて議論していた後、ビットコイン登場の時期に姿を消し、サトシの失踪後に再び現れたと指摘している。
この報道は、ビットコイン最大の謎の一つに再び光を当てるものであり、プロトコル初期の重要人物である暗号学者を中心に据えた新たな仮説となる。ただし、暗号学的証拠を欠く以上、状況証拠の域を出ない。
また記事では文体分析も用いられ、バック氏の文章がサトシの文体と共通点を持つと主張された。具体的にはフォーマットの癖やハイフンの使い方、技術用語の重複などが挙げられているが、決定的証拠を提示したわけではない。
記事によれば、CypherpunksやCryptography、Hashcashのメーリングリスト参加者の中で、「proof-of-work」をハイフン付きで表記し、かつロシアの電子通貨WebMoneyに言及していたのはバック氏のみであり、これらはいずれもサトシのメールにも見られる特徴とされる。また「partial pre-image」という表現を用いた人物はバック氏を含む2人のみであり、デジタルコインで「お金を焼却する(burning)」という概念に触れた唯一の人物でもあったという。
バック氏の経歴、サトシ像と重なるとの指摘
キャリールー氏は、バック氏の経歴がビットコイン創設者の像と一致すると指摘する。初期にはビットコインを避けていたものの、2013年以降急速に関与を深め、ブロックストリームを共同創業し、優秀な開発者を引き抜き、10億ドル超を調達した点を挙げた。
NYTの記事は「実名で再登場し、自身の創造物の主導権を取り戻そうとするのは、サトシの行動として整合的に見える」としている。
ただしバック氏は一貫して自らがサトシであることを否定している。2024年には、HBOのドキュメンタリーがピーター・トッド氏をサトシ・ナカモトだと主張したことに対し、「違う。そもそもそのドキュメンタリーも誤りになるだろう。誰もサトシの正体は知らない」と述べている。トッド氏も当時この主張を否定している。
仮想通貨コミュニティは懐疑的
仮想通貨コミュニティは今回の主張に対して懐疑的な見方を示している。セルフカストディ企業カーサの共同創業者兼最高セキュリティ責任者であるジェイムソン・ロップ氏は、「ナカモトは文体分析で特定できるものではない」と指摘した。
キャリールー氏自身も、この調査が決定的証拠に当たるものではないことを認めており、「真に決定的な証拠となるのは暗号学的証明のみ」とXで述べている。

