カルダノ創業者のチャールズ・ホスキンソン氏が、再び暗号資産の世界に戻ってきた。
きっかけは、米ワイオミング州で進めていた医療事業の撤退だ。ホスキンソン氏が関わるホスキンソン・ヘルス・アンド・ウェルネス・クリニックは、7月31日に閉鎖される予定だ。地方で高度医療を受けにくい住民に、専門医療や予防医療を届けるという構想だった。
だが、理想は重かった。
クリニック側は、現在の形では財務的に維持できないと説明した。1月には40人を解雇し、急拡大と資金流出の速さを認めていた。共同創業者で、チャールズ氏の兄でもあるウィリアム・ホスキンソン氏は、チャールズ氏がインフラ、給与、地域投資に約2億5000万ドル、約400億円を投じたと明かしている。さらに関連する建設会社などでも、2025年12月に計136人の人員削減があった。
医療施設は7万5000平方フィート、約7000平方メートル規模。地下通路でつなぐ予定だった手術センター構想も止まった。ホスキンソン氏は閉鎖について、「人生で最悪の週の一つだった」と語った。
そのホスキンソン氏が、いま集中すると宣言しているのが、カルダノとミッドナイトだ。
カルダノは、イーサリアム共同創業者の一人だったホスキンソン氏が立ち上げたブロックチェーンだ。学術研究や厳密な設計を重視することで知られる。ミッドナイトは、プライバシー保護を重視する関連プロジェクトだ。
ただし、戻る先も穏やかではない。
カルダノでは現在、ネットワークの資金をどう使うかをめぐり、激しい対立が起きている。争点は、ホスキンソン氏側のインプット・アウトプット・グローバル、IOGが出した研究開発費の申請だ。要求額は3290万ADA。対象は、次世代の処理能力向上技術「レイオス」、ゼロ知識証明、ポスト量子暗号、学術研究の継続などだ。
要するに、カルダノを「研究主導のブロックチェーン」として続けるための予算だ。
だが、投票権を持つDRepと呼ばれる代表者たちは反発している。研究そのものに反対しているというより、複数の支出項目を一つにまとめて承認を求めるやり方に不満がある。レイオスならレイオス、量子耐性なら量子耐性と、分けて審査すべきだという声が出ている。
投票は6月8日に終わる予定だ。直近の集計では、可決に必要な67%に大きく届かず、賛成は30%未満にとどまっている。
ホスキンソン氏は危機感を強めている。否決されれば、カルダノは科学者を失い、研究所は閉鎖に追い込まれる可能性があると警告した。IOGは再提案しないとも述べており、否決なら人員削減や研究体制の中断につながる。
この発言は、日本のDRepにも向けられた。カルダノは初期の販売で日本の投資家が大きな役割を果たした経緯があり、日本コミュニティの存在感は今も小さくない。
今回の対立は、単なる予算争いではない。
カルダノは「研究で勝つ」ブロックチェーンとして歩んできた。一方で、現在はADA保有者とDRepが資金の使い道を決める分散型ガバナンスの時代に入っている。創業者側が必要だと言えば通る時代ではなくなった。
ホスキンソン氏は、IOG、エマーゴ、カルダノ財団、ミッドナイト財団、インターセクトという5つの主要組織による緊急会合も呼びかけている。2027年の次期ガバナンス改革をにらみ、意思決定を速くする仕組みを整えたい考えだ。カルダノ財団のフレデリック・グレガードCEOは、この提案を受け入れ、スイスで会合を開く用意があるとした。
医療事業で巨額を投じ、撤退を迫られたホスキンソン氏。
その次に向かったのは、古巣のカルダノだった。
だが、そこに待っていたのは拍手ではない。
創業者の言葉すら、もはや自動的には通らない。カルダノが本当に分散型の組織になったのなら、それは成功でもある。だが同時に、創業者にとっては、最も扱いにくい現実でもある。
